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地球環境問題と人類存続に関するアンケート 調査報告

 本報告書は、当財団が1992年より実施している「地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」の2024年の調査結果をまとめたものです。本年度も、より多くの方々へ環境問題の有識者による地球環境に関する現状認識をお伝えしたいと存じます。

 2024年の環境アンケートの回答期間は、例年通り4月、5月でした。2023年5月には、WHOが2020年に始まった新型コロナウィルス感染症( COVID-19)の緊急事態宣言の終了を発表し、それから一年が経過したこともあり、多くの人がパンデミック前の日常を取り戻し始めました。しかし、2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は依然として続いており、さらに2023年10月からはイスラエルとハマスとの戦闘も続いています。このような世界情勢の中でのアンケート調査で、昨年より288件多い2,093件(2023年は1,805件)もの回答をいただきました。大変お忙しい中、アンケートにご回答くださった世界中の多くの方にお礼を申し上げるとともに、今年も御報告が出来ることを嬉しく思います。

 今年は環境危機時計®の時刻が昨年より4分戻り、9時27分になりました。2018年と2020年に9時47分で時刻が最も進んだ後、2021年から4年連続で針が戻っています。地域別にみると、西欧を除いたすべての地域で針が戻りました。年代別にみると60代以上では昨年より進んだ時刻を回答し、それ以外の世代では戻った時刻を回答しました。世界的には環境問題が良い方向に変わりつつあるという認識を持っている人が多いようです。

 また、昨年は、「生活者の環境危機意識調査」として一般の生活者を対象に日本を含む世界25か国で調査を実施しましたが、この調査を、本年は日本国内のみで行いました。結果は弊財団のウェブサイトで公開いたしますので、世界の環境問題に関する有識者を対象とした本調査結果とあわせてご覧ください。

 多くの方からの回答とともに、有意義なご意見やコメントも多数頂きました。
 今年も、各国の回答者のコメントは弊財団のウェブサイトに掲載いたします。
 環境問題に関する有識者の生の声をぜひご覧ください。

 われわれは、本環境アンケートを通じて環境問題に関わる人のみならず、より多くの方々に環境への関心を持って頂くことにより、地球環境問題の解決に微力ながら貢献することを切に願っております。今後とも皆様方からの貴重なご助言・ご指導を賜りますよう何とぞよろしくお願い申し上げます。

2024年9月
公益財団法人 旭硝子財団

Ⅰ 調査の概要

調査時期2024年4月から6月
調査対象 世界各国の政府・自治体、NGO/NPO 、大学・研究機関、企業、マス・メディア、民間等の環境問題に関する有識者
(旭硝子財団保有データベースに基づく)
送付数約39,000(海外 約37,000 国内 約2,000)
回収数2,093
回収率約5.4%
表1. 属性別の回収結果

※本報告書における分析の百分率のベースは、特に説明がない限り、単一回答の設問については回収票数、複数回答の設問については有効回答の延回答件数を使用している。

※数値は小数点第1位もしくは第2位を四捨五入してある。

※延回答件数ベース:回収票数ではなく、その質問に対してなされた回答の延件数を基数とする。

Ⅱ. 調査結果の概要

Ⅱ-1 .人類存続の危機に関する認識̶環境危機時計®

  • 世界の環境危機時計の時刻は2011年以来、進む傾向にあったが、2021年から4年連続で時計の針が戻って9時27分になった。
  • 世界各地域の環境危機時計の時刻を見ると、昨年に比べ、西欧では19分針が進んだが、それ以外のすべての地域で針が戻った。特にメキシコ・中米・カリブ諸国では35分、中東では44分と大きく針が戻った。
  • 日本の環境危機時計の時刻は9時37分となり昨年に比べ針が6分進んだ。
  • 世界全体の環境危機時計の時刻を決定する際に選ばれた「地球環境の変化を示す項目」は、選択率が高い順に、「気候変動 (30%)」、「生物圏保全性(生物多様性)(13%)」、「社会、経済と環境、政策、施策( 12%)」。
  • 世界全体の「地球環境の変化を示す項目」を環境危機時計の時刻順に並べると、「生物圏保全性(生物多様性)」(9時46分)が最も進んでいる。この時刻は昨年の9時59分から13分戻った。

Ⅱ-2 .「気候変動問題」と「生物多様性の喪失」の問題に関する認識


地球環境問題の中で、「気候変動問題」と「生物多様性の喪失」の問題には特に大きな関心が集まっている。「一般の人々の意識」、「政策・法制度」、「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の三つの観点から、地球温暖化抑制のための「脱炭素社会への転換」と「野生生物の生息地の保全・再生」の自国内での進捗の認識について質問した。

  • 脱炭素社会への転換については、「政策・法制度」や「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の面は、「一般の人々の意識」の面ほど進んでいない。
  • 野生生物の生息地の保全・再生については、全ての面で進んでいると考える人は少なく、脱炭素社会への転換に比べても遅れていると考えられている。

Ⅱ-3 .持続可能な開発目標(SDGs)に関する認識

  • 自分の住む国・地域で2030年に達成度が高いと思う目標として、「9. 産業と技術革新の基盤をつくろう」、「18. 達成度が高いと思うものはない」、「4. 質の高い教育をみんなに」の三つが多く選ばれた。
  • 自分の住む国・地域で2030年に達成度が低いと思う目標として、「1. 貧困をなくそう」、「10.人や国の不平等をなくそう」、「13. 気候変動に具体的な対策を」の三つが多くの国、地域で選ばれた。
  • 2030年までの目標達成に向けて、全目標達成を100%としたときの2024年時点でのSDGsの感覚的な達成度は、世界平均で31%であった。

Ⅲ. 調査結果

Ⅲ-1 人類存続の危機に関する認識- 環境危機時計®

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問1 9ページの表5は“地球環境の変化を示す項目”です。地球全体の問題を念頭に置きながら、あなたがお住まいの国または地域における環境問題を考える上で重要な項目を3つ選んで1位 ~ 3位の順位付けをし、それぞれ時計の針に例えて0:10 ~ 12:00の範囲で○○時○○分と答えてください。時刻は便宜上、10分単位でご記入下さい。

※危機時刻の決定法について
 1位から3位の時刻の加重平均(1位:50%、2位:30%、3位:20%)として環境危機時計®の時刻を決定します。
 有効な回答が、1位と2位だけの場合は1位:62.5%、2位:37.5%。1位だけの場合は100%としています。

図1. 環境危機時計®の時刻

Ⅲ-1-1 世界の環境危機時計®の時刻

表2 環境危機時計®の時刻の推移(世界)

図2 世界と日本の環境危機時計®の時刻の推移
  • 世界の環境危機時計®の時刻は2011年以来、進む傾向にあったが、2021年から4年連続で時計の針が戻った。

図3-1 世界各地域と日本の環境危機時計®の時刻

表3 世界各地域の環境危機時計®の時刻の推移
  • 表3と図3-2に示すように、世界全体の環境危機時計®の針は4分戻った。
  • 日本の環境危機時計®の平均時刻は9時37分となり昨年より6分進んだ。
  • 地域別に見ると、メキシコ・中米・カリブ諸国では35分、中東では44分と大きく時刻が戻ったことが目を引く。メキシコ・中米・カリブ諸国で2023年は前年よりも自然災害が少なかったこと、2023年11月にCOP28がアラブ首長国連邦で開催されたことの影響もあるかもしれない。
  • 世界の地域の中で西欧は唯一時計の針が19分進んだ。これは、2023年に猛暑、干ばつ、洪水などの異常気象が頻発したことや、ロシア・ウクライナ戦争の長期化によるエネルギー供給の不安定化などが回答者の意識に影響しているのではないだろうか。

図3-2に表3に示した地域・国の中から回答者の多いものを抜粋して、過去10年の環境危機時計®の時刻の推移を示す。


図3-2 回答者の多い国・地域の環境危機時計®の時刻の推移

回答者の年齢層による環境危機時計®の時刻の過去10年の推移(2015年〜2024年)


過去10年間の環境危機時計®の時刻の世代別推移を表4,図4に示す。
表4. 環境危機時計®の時刻の世代別推移

図4. 環境危機時計®の時刻の世代別推移
  • 60代以上の回答者は、他の世代よりも進んだ環境危機時計®の時刻を回答する傾向がある。
  • 今年は20代から50代の示す環境危機時計の時刻は戻り、60代以上では時刻が進んだ。60代以上とそれ以外とで環境問題の現状の捉え方の二分化が顕著になってきた。
  • 過去10年を振り返ると、20代、30代が示す環境危機時計計®の時刻は、2018年まで進む傾向にあったが、その後は時計の針が戻る傾向にある。

Ⅲ-1-2. 地球環境の変化を示す項目

表5. 地球環境の変化を示す項目

図5 持続可能な開発目標 (SDGs)

Ⅲ-1-2-1  地球環境の変化を示す項目(第1 ~ 3位選択)の分布

図6-1 地球環境の変化を示す項目(第1~3位選択)の分布 (環境危機時計®の時刻と選択率), 2024年
  • 世界全体の環境危機時計の時刻を決定する際に選ばれた「地球環境の変化を示す項目」は、昨年と同様に「気候変動」(30%)、「生物圏保全性(生物多様性)」(13%)、「社会、経済と環境、政策、施策」(12%)が上位3 項目であり、これに「水資源」(9%)、「ライフスタイル(消費性向)」(8%)、「人口」(7%)、「生物化学フロー(環境汚染)」(7%)、「食糧」(7%)、「陸域系の変化(土地利用)」(6%)と続いた。各項目の占める割合は昨年からほとんど変わっていない
  • 同じく世界全体の「地球環境の変化を示す項目」を環境危機時計の時刻が進んでいる順に並べると、「生物圏保全性(生物多様性)」(9時46分)、「気候変動」(9時33分)、「社会、経済と環境、政策、施策」(9時33分)が世界平均(9時27分)よりも進んでいる。平均よりも戻っているのは、「ライフスタイル」(9時20分)、「人口」(9時18分)、「生物化学フロー(環境汚染)」(9時13分)、「陸域系の変化(土地利用)」(9時12分)、「水資源」(9時07分)、「食糧」(8時59分)の順となった。
  • 2022年(図6-3)は例外的に「社会、経済と環境、政策、施策」(9時49分)が最も進んだ時刻となっているが、「生物圏保全性(生物多様性)」の時刻は例年最も進んでいる。

図6-2 地球環境の変化を示す項目(第1~3位選択)の分布 (環境危機時計®の時刻と選択率), 2023年

図6-3 地球環境の変化を示す項目(第1~3位選択)の分布 (環境危機時計®の時刻と選択率), 2022年

Ⅲ-1-2-2 環境危機時計®の時刻/選択率の分布の年次変化

図7 環境危機時計®の時刻/選択率の分布の年次変化 (2015年~2024年度)
  • 過去10年間を見ると、「気候変動」は、選択率が増加する傾向にあったが、近年は30%程度で変化は小さく、時刻は戻ってきている。それ以外の項目は、選択率の変動はあまり大きくなく、環境危機時計®の時刻は9時から10時ごろの間を変動している。

Ⅲ-1-2-3 各地域の地球環境の変化を示す項目の選択傾向

表6 各地域の地球環境の変化を示す項目の選択傾向
  • 2024年、世界全体で見ると「地球環境の変化を示す項目」として「気候変動」(30%)が最も多く選ばれた。
  • 地域別に見ても、全ての地域で「地球環境の変化を示す項目」として「気候変動」が選ばれた。世界中で気候変動を感じている。次いで、「生物圏保全性(生物多様性)」が、多くの地域で選ばれた。
  • 昨年、中東では「水資源」、東欧・旧ソ連では「社会、経済と環境、政策、施策」が選択率第1 位であったが、2024年には両地域とも「気候変動」が選択率第1位となった。
  • アジアに着目すると、「気候変動」の次の項目は、中国では「水資源」、台湾では「生物化学フロー(環境汚染)」、インドでは「生物圏保全性(生物多様性)」と「陸域系の変化(土地利用)」、韓国では「生物圏保全性(生物多様性)」、日本では、「社会、経済と環境、政策、施策」が選ばれ、同じアジアの中でも違いが見られる。

Ⅲ-1-2-4 地球環境の変化を示す項目の環境危機時計®の時刻の地域分布

表7 地球環境の変化を示す項目の環境危機時計®の時刻の地域分布
  • 世界の環境危機時計®の時刻は9時27分であるが、地球環境の変化を示す項目としては、「生物圏保全性(生物多様性)」(9時46分)が2位の「気候変動」「社会、経済と環境、 政策、施策」(9時33分)と比べて進んでいる。「食糧」(8時59分)は唯一、8時台となった。
  • 地域ごとに見て危機意識が相対的に高い(10時30分以降)のは、オセアニアの「生物圏保全性( 生物多様性)」(10時42分)、「社会、経済と環境、政策、施策」(10時37分)、北米の「人口」(10時58分)、西欧の「社会、経済と環境、政策、施策」(10時32分)である。
  • 地域ごとに見て危機意識が相対的に低い(9時以前)のは、オセアニアでは「人口」(8時58分)、メキシコ・中米・カリブ諸国では「水資源」(8時59分)、「人口」(8時51分)である。アフリカでは「人口」(10時23分)以外は回答のあった全てが9時以前となっている。

Ⅲ-2 「気候変動問題」と「生物多様性の喪失」の問題に関する認識

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 地球環境問題の中で、「気候変動問題」と「生物多様性の喪失」の問題には特に大きな関心が集まっている。「一般の人々の意識」、「政策・法制度」、「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の三つの観点から、地球温暖化抑制のための「脱炭素社会への転換」と「野生生物の生息地の保全・再生」の自国内での進捗の認識について質問した。
 「全く進んでいない」を-2 、「どちらかといえば進んでいない」を-1、「どちらともいえない」を0、「どちらかといえば進んでいる」を+1、「確実に進んでいる」を+2として、各回答に数値を割り当て、平均スコアを算出。地域・国・組織・世代ごとの平均値の算出にあたっては、30以上の標本数を対象にした。

問2-1 地球温暖化への取り組みを促進するため、2015年にパリ協定、SDGs が採択されました。
    2015年以前と比較して、以下の3つの観点からお答えください。
    あなたの住んでいる国・地域で脱炭素社会への転換は進んでいると思いますか。

 全世界の平均値と地域・国ごとの平均値を表8に示す。

世界平均は下記の通りとなった。
  • 一般の人々の意識+0.73
  • 政策、法制度+0.56
  • 社会基盤(資金・人材・技術・設備)+0.36

  • 全体として、脱炭素社会への転換については、「政策・法制度」や「社会基盤」の面は、「一般の人々の意識」ほど進んでいないという結果となった。
  • アジアの中で、日本と韓国は、「一般の人々の意識」、「政策・法制度」。「社会基盤」のどの面でもポイントが最も小さい。
  • 国や地域により「一般の人々の意識」と「政策、法制度」の進み具合のとらえ方に差が見られた。中国、台湾では両者の差は小さく、「政策、法制度」が「一般の人々の意識」よりやや進んでいるという結果であった。これに対し、オセアニア、北米、西欧では両者の差が大きく、「政策、法制度」が「一般の人々の意識」よりも大きく遅れているという結果となっている。上記の傾向はここ3年間変わっていない。
  • 中国では「政策、法制度」、「社会基盤」の面で、3年続けて世界で最も高い値になっている。政府主導で脱炭素社会への転換が進んでいると考える回答者が多いようである。
  • 組織別に見ると、企業関係者は他の組織よりも「政策・法制度」、「社会基盤」の面で脱炭素社会への転換が進んでいるとの考えが以前から強い。中央政府の関係者は「一般の人々の意識」が年々良い方向に変わってきていると考えている。
  • 世代別に見ると、20代、30代の若い世代は、他の世代に比べて「政策、法制度」、「社会基盤」の面で脱炭素社会への転換が進んでいるとの考えが強い。
表8 「脱炭素社会への転換の進み具合」に関する世界平均と地域、属性別平均

問2-2 生物多様性が失われるのを抑えるため、愛知目標の後継となる世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が
    2022年に採択されました。2022年以前と比較して、以下の3つの観点からお答えください。
    あなたの住んでいる国・地域で野生生物の生息地の保全・再生は進んでいると思いますか。


問2-2について、「一般の人々の意識」、「政策・法制度」、「社会基盤」の三つの観点から問2-1と同様に分析した結果を表9に示す。
表9 「野生生物の生息地の保全・再生の進み具合」に関する世界平均と地域、属性別平均
  • 世界全体で、「野生生物の生息地の保全・再生の進み具合」はどの観点でもポイントは0.5以下で、「気候変動」への対応に比べて全ての面で進んでいないと考える人が多い。
  • 三つの観点の中では、「社会基盤」が「一般の人々の意識」、「政策・法制度」よりも遅れていると考える人が多い。
  • 中国の回答者は、他の地域の回答者よりも全ての面で「野生動物の生息地の保全・再生」が進んでいると考えている。
  • 日本では、三つの観点ともマイナスのポイントとなっており、野生生物の生息地の保全・再生は進んでいないと考える回答者が多い。
  • オセアニアではどの観点からもポイントが低く、とくに「政策・法制度」、「社会基盤」では最も低いポイントになっている。
  • 中央政府は、「一般の人々の意識」の面で、企業は「政策・法制度」、「社会基盤」の面で野生生物の生息地の保全・再生が少しずつ進みつつあると考えている。
  • 20代、30代の回答者は、他の世代よりもすべての面で野生生物の生息地の保全・再生が少しず つ進みつつあると考えている。

Ⅲ-3 持続可能な開発目標(SDGs)に関する認識

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問3-1  あなたがお住まいの国または地域で、17ある目標の中で2030年に達成度が高いと思う目標 を3つ選び、
    高いものから順に1位、2位、3位を、目標の番号でお答えください。

達成度が高いと思う目標として1位、2位、3位に選んだ回答者の割合(%)を表10に示す。
表10 2030年に達成度が高いと思う目標(複数回答)
  • 自分の住む国・地域で2030年に達成度が高いと思う目標として、世界平均としては、「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」(23%)、「4.質の高い教育をみんなに」(20%)、「13.気候変動に具体的な対策を」(18%)の三つが選ばれている国・地域が多い。一方、「達成度が高いと思う ものはない」を選んだ回答者も多い。
  • アジア、中東では「4.質の高い教育をみんなに」の達成度が高いと思うと回答した人が多い中、北米、メキシコ・中米・カリブ諸国、南米では、この目標の達成度が高いと回答した人が少ない。
  • インド、メキシコ・中米・カリブ諸国、南米、アフリカ、中東、東欧・旧ソ連では、「13.気候変動に具体的な対策を」の達成度が高いとした回答者が多い。
  • 「 5.ジェンダー平等を実現しよう」は、アジア、中東では2030年時点での達成度が高いと思われていないが、それ以外の地域では達成度が高いと考えられている。

問3-2  あなたがお住まいの国または地域で、17ある目標の中で2030年に達成度が低いと思うもの を3つ選び、
    低いものから順に1位、2位、3位を、目標の番号でお答えください。

達成度が低いと思う目標として1位、2位、3位に選んだ回答者の割合(%)を表11に示す。
表11 2030年に達成度が低いと思う目標(複数回答)
  • 自分の住む国・地域で2030年に達成度が低いと思う目標として、「1. 貧困をなくそう」(36%)、「10. 人や国の不平等をなくそう」(27%)、「13. 気候変動に具体的な対策を」(25%)の三つを選んだ回答者が多かった。これらに「16. 平和と公正をすべての人に」(24%)が続く。
  • 「 5. ジェンダー平等を実現しよう」の自国での実現が難しいと考えている回答者が、特に日本、韓国、中東に多い。
  • 「 12. つくる責任つかう責任」が、自国での達成度が低いと思う目標に選んだ回答者は、オセアニア、北米、西欧に多かった。
  • 日本、台湾、カナダ、アフリカ、中東、東欧・旧ソ連では、「16. 平和と公正をすべての人に」が他の地域に比べて達成度が低いと考えられている。

問4  2030年までの目標達成に向けて、17あるSDGs が、全体として2024年時点でどの程度達成 できていると思いますか。
   全目標達成を100%として、1~ 100の数字でお答えください。
   便宜上、数字は5%刻みの値でご記入ください。

図17に回答者2,093人の2024年時点での感覚的なSDGsの達成度(%) の分布を示す。回答者の15.1%が達成度0%、9.5%が目標達成に向かっているとは思わないと回答し、平均は31.0%であった。
図17 2024年時点での感覚的なSDGsの達成度(%)の回答分布

図18に年代別の2024年時点での感覚的なSDGs の達成度( %)を示す。これを見ると、20代、30代の回答者は2024年時点でのSDGsの達成度が35%以上であると感じているのに対し、50代以上の回答者は30%も達成していないと感じており、年代による達成度の感じ方に大きな違いがある。
図18 年代別の感覚的なSDGsの達成度(%)

Ⅳ. おわりに

 世界の環境危機時計®の時刻は2020年の9時47分から、2024年の9時27分まで連続して合計20分戻った。世界のほとんどの地域で環境危機時計®の針が戻った中で、西欧のみ19分針が進んだ。西欧では過去10年の中で最も針が進んでいる。2023年のヨーロッパはとくに猛烈な熱波に見舞 われ、山火事も相次いだことが影響したのかもしれない。

 また、環境危機時計®の時刻を決める際に選択する「地球環境の変化を示す項目」では、調査開始後初めてすべての地域で「気候変動」が他の項目に比べ圧倒的に多い30%の人々に選ばれ、世界中で気候変動が喫緊の問題と認識されていることがわかる。

 2024年は、地球環境問題の中で特に大きな関心が集まっている「気候変動」と「生物多様性の喪失」の問題について「一般の人々の意識」、「政策・法制度」、「社会基盤」の三つの観点から意識調査を行った。
 パリ協定、SDGsが採択された2015年以前と比較して改善の兆しが見られるかという意識調査も行った。

 問2-1の脱炭素社会への転換について、世界全体では「一般の人々の意識」は、「政策、法制度」、「社会基盤」に比べて改善の兆しが見られるとする値が大きい傾向にある。

 問2-2で、自分が住んでいる国・地域で野生生物の生息地の保全・再生は進んでいるかという質問に対し、中国以外のどの地域でも「気候変動」に比べて全ての面で進んでいないと考える人が多い。地球環境の変化を示す項目の環境危機時刻について、「生物多様性」は「気候変動」よりも13分針が進んでおり、「生物多様性」問題への危機意識は高いといえる。「気候変動」については「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が1988年に設立されて活動を続けており、生物多様性については、IPCC設立より24年遅れた2012年に「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」が設立され活動を開始した。2024年にIPBESはブループラネット賞受賞が決まったので、今後のIPBESの活躍に期待したい。

 問3では、持続可能な開発目標(SDGs)に関する認識について調査した。今年も自国での2030年時点での達成度に関して質問した。達成度が高いと思う目標は地域によって比較的ばらつきがあるが、達成度が低いと思う目標として、多くの国で昨年に引き続き、「1. 貧困をなくそう」と「10. 人や国の不平等をなくそう」の二つが選ばれた。2030 年までの目標達成に向けて、2024年時点での感覚的なSDGsの達成度についての調査では、50代、60代の平均は26%、20代、30代の平均は39%であった。。この差について、若い世代ほどSDGsに関する情報量や教育の機会が多く、SDGsの達成に積極的に取り組み、世の中の変化を敏感にとらえているのかもしれないと考えた。

 最後に、今年もアンケート回答期間直前の一年間の、環境に関する世界の主な出来事をまとめた表を参考資料として作成した。報告書の結果を自分なりに読み解く際に、この表を参考にしていただきたい。

今後も、この調査を続けていく予定であり、来年もアンケートに協力していただけると幸いである。
番号 項目 あなたがお住まいの国または地域で観察されること(例) プラネタリー・
バウンダリーズ(PB)
関連するSDGs(持続可能な開発目標)
1 気候変動 大気中CO2濃度や地球温暖化、海洋酸性度の増加
旱ばつ、大雨・洪水、暴風雨、大雪、異常低温・高温、河川・湖沼の干上がり、砂漠化などの悪化(増加、頻発化、巨大化)
気候変動、
海洋の酸性化、
大気煙霧質、
オゾン減少
2 生物圏保全性(生物多様性) 絶滅する生物種(見かけなくなった生物)の増加、(汚染、気候変動、土地利用等も関連) 遺伝子多様性、
機能性の多様性
3 陸域系の変化(土地利用) 特に熱帯、温帯、亜寒帯の生物圏の森林領域面積の変化
耕作域面積の変化
陸域系の変化
4 生物化学フロー(環境汚染) 過剰な窒素やリン分による富栄養化や化学物質やマイクロプラスチックスなどによる河川・海洋・土壌汚染の増加
浮遊物質や煤、化学物質による大気汚染の増加
化学物質による汚染、
窒素とリンの循環
5 水資源 枯渇や汚染による利用可能な淡水の減少
グリーンウォーター(土壌に含まれる植物が利用する水)の管理や質の低下
淡水
6 人口 地域や国全体の人口増加
国全体の人口増減とは無関係な都市人口の増加
ほぼ全てのPBの領域に関連
7 食糧 陸や海の食糧資源の減少 ほぼ全てのPBの領域に関連
8 ライフスタイル(消費性向) エネルギー・資源多消費型ライフスタイルからの転換 ほぼ全てのPBの領域に関連
9 社会、経済と環境、政策、施策 環境経済、環境会計を柱とするグリーンエコノミーの実現
環境問題に対する認識や環境教育の進展、法制度、社会基盤
貧困問題の解決、ガバナンス、女性の社会的地位
ほぼ全てのPBの領域に関連
プラネタリー・バウンダリーズ:Will Steffen, Katherine Richardson, Johan Rockstrom et.al. Science 13 Feb 2015 vol. 347, issue 6223

2024年 アンケート自由記述ご意見

注)以下に掲載の記述回答文の内容は、回答者個人のご意見で有り、財団の見解を代表するものではありません。
また回答には氏名(敬称略)、国名、事務局番号を明記して、匿名希望者は匿名として表記しております。
表中のご意見は、一部抜粋となっているものもあります。

2024年 SDGsに関するご意見

注)以下に掲載の記述回答文の内容は、回答者個人のご意見で有り、財団の見解を代表するものではありません。
また回答には氏名(敬称略)、国名、事務局番号を明記して、匿名希望者は匿名として表記しております。
表中のご意見は、一部抜粋となっているものもあります。

2024年 地球環境の変化を示す項目(第1 ~ 3位選択)の分布(項目ごとの危機時刻と支持率)

2024年 環境問題への取り組みの改善の兆しに関する認識