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地球環境問題と人類存続に関するアンケート 調査報告

 本報告書は、当財団が1992年より実施している「地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」の2023年の調査結果をまとめたものです。本年度も、より多くの方々へ環 境問題の有識者による地球環境に関する現状認識をお伝えしたいと存じます。

 2023年の環境アンケートの回答期間の4月、5月には、2020年に始まった新型コロナウィルス感染症 (COVID-19) の世界的な流行もだいぶ収束してきました。しかし、2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は依然として続いている状況でした。このような中で、残念ながら、去年よりアジアを中心に71件の減少となりましたが、1,805 件(2022 年は1,876 件)もの回答をいただきました。大変お忙しい中、アンケートにご回答くださった世界中の多くの方にお礼を申し上げるとともに、今年も御報告が出来ることを嬉しく思います。

 今年も環境危機時計®の時刻(環境危機時刻)が9時31分になりました。2018年と2020 年に9時47分で時刻が最も進んでから、2021年には5分、2022年には7分、2023年にはさらに4分針が戻りました。本年はアジア、南米、西欧、アフリカ、中東と多くの地域で時刻が戻るなか、メキシコ・中米・カリブ諸国、東欧・旧ソ連では20分以上時刻が進みました。このうち東欧・旧ソ連では2年連続して時刻が進み、この結果には現在の世界の地政学的な要因が影響しているようにも思えます。

 また、本年も2022年につづき、「生活者の環境危機意識調査」として一般の生活者を対象に日本を含む世界25か国で調査を実施しました。結果は弊財団のウェブサイトで公開いたしますので、世界の環境問題に関する有識者を対象とした本調査結果とあわせてご覧ください。

 多くの方からの回答とともに、有意義なご意見やコメントも多数頂きました。
 今年も、各国の回答者のコメントは弊財団のウェブサイトに掲載いたします。
 環境問題に関する有識者の生の声をぜひご覧ください。

 われわれは、本環境アンケートを通じて環境問題に関わる人のみならず、より多くの方々に環境への関心を持って頂くことにより、地球環境問題の解決に微力ながら貢献することを切に願っております。今後とも皆様方からの貴重なご助言・ご指導を賜りますよう何とぞよろしくお願い申し上げます。

2023年9月
公益財団法人 旭硝子財団

Ⅰ 調査の概要

調査時期2023年4月から6月
調査対象 世界各国の政府・自治体、NGO/NPO 、大学・研究機関、企業、マス・メディア、民間等の環境問題に関する有識者
(旭硝子財団保有データベースに基づく)
送付数29,729(海外 27,971 国内1,758)
回収数1,805
回収率6.1%
表1. 地域・組織別の回収結果

本報告書における分析の百分率のベースは、特に説明がない限り、単一回答の設問については回収票数、複数回答の設問については有効回答の延回答件数を使用している。

※数値は小数点第1位もしくは第2位を四捨五入してある。

※延回答件数ベース:回収票数ではなく、その質問に対してなされた回答の延件数を基数とする。

Ⅱ. 調査結果の概要

Ⅱ-1 .人類存続の危機に関する認識̶環境危機時計®

  • 世界の環境危機時計の時刻は2011年以来、進む傾向にあったが、2021年から3年連続で時計の針が戻って9時31分になった。
  • 世界各地域の環境危機時計の時刻を見ると、昨年に比べ、南米、西欧、中東では10分以上針が戻ったが、メキシコ・中米・カリブ諸国、東欧・旧ソ連で20分以上針が進んだ。
  • 日本の環境危機時計の時刻は9時31分となり昨年に比べ針が2分戻った。
  • 世界全体の環境危機時計の時刻を決定する際に選ばれた「地球環境の変化を示す項目」は、選択率が高い順に、「気候変動 (30%)」、「生物圏保全性(生物多様性)(13%)」、「社会、経済と環境、政策、施策 (12%)」。
  • 世界全体の「地球環境の変化を示す項目」を環境危機時計の時刻順に並べると、「生物圏保全性(生物多様性)」(9時59分)が最も進んでいる。この時刻は昨年の9時43分から16分進んだ。

Ⅱ-2 .環境問題への取り組みの改善の兆しに関する認識 -パリ協定、SDGsが採択された2015年以前との比較

「一般の人々の意識」、「政策・法制度」、「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の三つの観点から環境問題への取組みに対する改善の兆しを探るため、2019年から、「脱炭素社会への転換」と「地球環境の変化を示す項目」の二つについて質問をしている。

  • 脱炭素社会への転換については、「政策・法制度」や「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の面は、「一般の人々の意識」の面ほど進んでいない。
  • 改善の兆しがある項目として多く選ばれたのは「気候変動」(27.0%)で、次いで、「社会、経済と環境、政策、施策」(16.3%)、「ライフスタイル(消費性向)」(12.7%)の順であった。「全く改善の兆しはない」という回答も16.6% あった。

Ⅱ-3 .持続可能な開発目標(SDGs)に関する認識

  • 日々の生活で関心を持っている目標として、「13. 気候変動に具体的な対策を」のほかに、「3.すべての人に健康と福祉を」、「7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに」「15. 陸の豊かさも守ろう」が選ばれた。
  • 世界の問題として関心が高い目標には、「13. 気候変動に具体的な対策を」がすべての国、地域で最も多く選ばれた。これに「1. 貧困をなくそう」、「16. 平和と公正をすべての人に」が続いた。これらの目標の実現は世界で多くの人が喫緊の問題と考えていることがわかる。
  • 自分の住む国・地域で2030年に達成度が高いと思う目標として、「2. 飢餓をゼロに」、「4.質の高い教育をみんなに」、「6. 安全な水とトイレを世界中に」の三つが多くの国・地域で選ばれた。
  • 自分の住む国・地域で2030年に達成度が低いと思う目標として、「1. 貧困をなくそう」、「10.人や国の不平等をなくそう」、「13. 気候変動に具体的な対策を」の三つが多くの国・地域で選ばれた。

Ⅲ. 調査結果

Ⅲ-1 人類存続の危機に関する認識- 環境危機時計®

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問1 9 ページの表5は“地球環境の変化を示す項目”です。地球全体の問題を念頭に置きながら、あなたがお住まいの国または地域における環境問題を考える上で重要な項目を3つ選んで1位~ 3位の順位付けをし、それぞれ時計の針に例えて0:10 ~ 12:00の範囲で○○時○○分と答えてください。時刻は便宜上、10分単位でご記入下さい。

※危機時刻の決定法について
 1位から3位の時刻の加重平均(1位:50%、2位:30%、3位:20%)として環境危機時計®の時刻を決定します。
 有効な回答が、1位と2位だけの場合は1位:62.5%、2位:37.5%。1位だけの場合は100%としています。

図1. 環境危機時計®の時刻

Ⅲ-1-1 世界の環境危機時計®の時刻

表2 環境危機時計®の時刻の推移(世界)

図2 世界と日本の環境危機時計®の時刻の推移
  • 世界の環境危機時計®の時刻は2011年以来、進む傾向にあったが、2021年から3年連続で時計の針が戻った。

図3-1 世界各地域の環境危機時計®の時刻

表3 世界各地域の環境危機時計®の時刻の推移
  • 世界の環境危機時計®の時刻は9時31分となり昨年より4分戻った。
  • 日本の環境危機時計®の時刻は9時31分となり昨年より2分戻った。

時刻の変化が大きかった地域

  • 南米の環境危機時計®の時刻は9時22分で昨年より21分戻った。
  • 東欧・旧ソ連の環境危機時計®の時刻は10時01分で昨年より24分進んだ。
  • メキシコ・中米・カリブ諸国の環境危機時計®の時刻は9時58分で昨年より26分進んだ。

図3-2に表3に示した地域・国の中から回答者の多いものを抜粋して、過去10年の環境危機時計®の時刻の推移を示す。


図3-2 回答者の多い国・地域の環境危機時計®の時刻の推移
  • 表3と図3-2に示すように、世界全体で時計の針は4分戻ったが、地域別に見ると、中国で9分戻ったほか、南米で21分、西欧で13分針が戻った影響が大きい。中国では、政府の環境対策を評価し、環境問題は良い方向に向かっていると考える20代、30代の若者の回答者が多いこと、ブラジルでは2022年10月の大統領選挙で左派のルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ新大統領が誕生し、環境保護で知られるマリーナ・シルバ氏が環境相に任命されたこと、欧州連合(EU)が脱炭素政策などで野心的な環境政策を次々と導入していることなどが反映されているのではないかと考えられる。
  • 世界各地域の環境危機時計®の時刻を見ると、昨年に比べ、メキシコ・中米・カリブ諸国は26分、東欧・旧ソ連は24分と大幅に針が進んだ。メキシコ・中米・カリブ諸国では国内の情勢不安、そしてハリケーンなどの自然災害の影響で、難民と亡命希望者が増えていることが問題となっており、東欧・旧ソ連では、ロシアのウクライナ侵攻が依然として続いている。このような状況が環境危機時計®の時刻に影響しているのではないかと考えられる。

回答者の年齢層による環境危機時計®の時刻の過去10年の推移(2014年〜2023年)


過去10年間の環境危機時計®の時刻の世代別推移を表4,図4に示す。
表4. 環境危機時計®の時刻の世代別推移
  • 60代以上の回答者は、他の世代よりも進んだ環境危機時計®の時刻を回答する傾向がある。
  • 今年は40代、50代の示す環境危機時計®の時刻が5分進み、20代、30代とそれ以上の世代との差が顕著になった。
  • 過去10年を振り返ると、20代、30代が示す環境危機時計®の時刻は、2018年まで上昇傾向にあったが、その後は時計の針が戻る傾向にある。

図4. 環境危機時計®の時刻の世代別推移

Ⅲ-1-2. 地球環境の変化を示す項目

表5. 地球環境の変化を示す項目

図5 持続可能な開発目標 (SDGs)

Ⅲ-1-2-1  地球環境の変化を示す項目(第1 ~ 3位選択)の分布

図6-1 地球環境の変化を示す項目(第1~3位選択)の分布 (環境危機時計®の時刻と選択率), 2023年
  • 世界全体の環境危機時計の時刻を決定する際に選ばれた「地球環境の変化を示す項目」は、昨年と同様に「気候変動」(30%)、「生物圏保全性(生物多様性)」(13%)、「社会、経済と環境、政策、施策」(12%)が上位3 項目であり、これに「水資源」(9%)「生物化学フロー(環境汚染)」(8%)、「ライフスタイル(消費性向)」(7%)、「人口」(7%)、「食糧」(6%)、「陸域系の変化(土地利用)」(6%)と続いた。各項目の占める割合は昨年からほとんど変わっていない。
  • 同じく世界全体の「地球環境の変化を示す項目」を環境危機時計の時刻が遅い順に並べると、「生物圏保全性(生物多様性)」(9時59分)、「気候変動」(9時33分)が世界平均(9時31分)よりも進んでいる。平均よりも遅れているのは、「社会、経済と環境、政策、施策」(9時30分)、「ライフスタイル」(9時27分)、「陸域系の変化(土地利用)」(9時27分)、「人口」(9時25分)、「生物化学フロー(環境汚染)」(9時22分)、「水資源」(9時06分)、「食糧」(8時59分)の順となった。
  • 2022年は例外的に「社会、経済と環境、政策、施策」(9時49分)が最も進んだ時刻となっていたが、「生物圏保全性(生物多様性)」の時刻は例年最も進んでいる。
図6-2 地球環境の変化を示す項目(第1~3位選択)の分布 (環境危機時計®の時刻と選択率), 2022年

図6-3 地球環境の変化を示す項目(第1~3位選択)の分布 (環境危機時計®の時刻と選択率), 2021年

Ⅲ-1-2-2 環境危機時計®の時刻/選択率の分布の年次変化

図7 環境危機時計®の時刻/選択率の分布の年次変化 (2014年~2023年度)
  • 過去10年間を見ると、「気候変動」は選択率が増加する傾向にあったが、近年は30%程度で変化は小さく、時刻は戻ってきている。それ以外の項目は、選択率の変動はあまり大きくなく、環境危機時計®の時刻は9時から10時ごろの間を変動している。

Ⅲ-1-2-3 各地域の地球環境の変化を示す項目の選択傾向

表6 各地域の地球環境の変化を示す項目の選択傾向
  • 世界全体で最も多く選ばれた「地球環境の変化を示す項目」は、昨年と同じ 「気候変動」(30%)で、次いで、「生物圏保全性(生物多様性)」(13%)で、これは多くの地域で見られる傾向である。
  • アジアに着目すると、「気候変動」の次の項目は、中国では「水資源」、台湾では「生物化学フロー(環境汚染)」、インド、韓国では「生物圏保全性(生物多様性)」、日本では、「社会、経済と環境、政策、施策」が選ばれ、同じアジアの中でも違いが見られる。
  • 世界のほとんどの地域で、「気候変動」が選択率第1位であるが、中東では「水資源」、東欧・旧ソ連では「社会、経済と環境、政策、施策」が選択率第1位となっており、それぞれの地域の地政学的な事情が表れている。

Ⅲ-1-2-4 地球環境の変化を示す項目の環境危機時計®の時刻の地域分布

表7 地球環境の変化を示す項目の環境危機時計®の時刻の地域分布
  • 世界の環境危機時計®の時刻は9時31分であるが、地球環境の変化を示す項目としては、「生物圏保全性(生物多様性)」(9時59分)が2位の「気候変動」(9時33分)と比べてずっと進んでいる。「社会、経済と環境、政策、施策」は、昨年は9時49分であったが、今年は9時30分と19分戻った。
  • 地域ごとに見て危機意識が相対的に高いのは、オセアニアの「気候変動」(10時41分)、北米の「生物化学フロー( 環境汚染)」(11時09分)、「生物圏保全性( 生物多様性)」(10時56分)である。
  • 地域ごとに見て危機意識が相対的に低いのは、アジアでは「水資源」(8時54分)と「食糧」(8時56分)、南米では「水資源」(8時24分)、西欧では「人口」(8時37分)、アフリカでは「気候変動」(8時24分)と「水資源」(8時32分)である。

Ⅲ-2 環境問題への取り組みの改善の兆しに関する認識

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環境問題への取組みに改善の兆しは見られますか。パリ協定、SDGsが採択された2015年以前と比較して以下の3つの観点からお答えください。

 環境問題への取組みに対する改善の兆しとして、「一般の人々の意識」、「政策・法制度」、社会基盤「資金・人材・技術・設備」の三つの要素があると仮定し、脱炭素社会への転換と「地球環境の変化を示す項目」別に質問をした。
 回答の「全く進んでいない」を-2、「どちらかといえば進んでいない」を-1、「どちらともいえない」を0、「どちらかといえば進んでいる」を+1、「確実に進んでいる」を+2として数値化し平均値を算出した。
 地域・国ごとの平均値の算出にあたっては、30 以上の標本数を対象にした。

問2-1 脱炭素社会への転換は進んでいると思いますか?

 全世界の平均値と地域・国ごとの平均値を表8に示す。

世界平均は下記の通りとなった。
  • 一般の人々の意識+0.77
  • 政策、法制度+0.52
  • 社会基盤(資金・人材・技術・設備)+0.38

  • 全体として、脱炭素社会への転換については、「政策・法制度」や「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の面は、「一般の人々の意識」ほど進んでいないという結果となった。
  • 日本と韓国のみ2022年まで3年連続してポイントが増えていたが、2023年には日本の「一般の人々の意識」がやや低下、韓国は「政策・法制度」や「社会基盤」の面で大きく後退した。
  • 地域により「一般の人々の意識」と「政策、法制度」の進み具合のとらえ方に差が見られた。中国、台湾では「政策・法制度」が「一般の人々の意識」よりやや進んでおり、両者の差は小さい。これに対し、オセアニア、北米、西欧では両者の差が大きく、「政策、法制度」が「一般の人々の意識」よりも大きく遅れているという結果となっている。上記の傾向はここ3年間変わっていない。
  • 中国ではどの項目でも2022年の数値より小さくなったが、世界で最も高い値になっている。とくに「政策、法制度」、「社会基盤」については脱炭素社会への転換が進んでいると考える回答者が多い。
  • 東欧・旧ソ連では、2022年から2023年にかけて、「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の面でポイントが大きく低下し-0.30となった。
  • 組織別に見ると、企業では他の組織よりも「政策・法制度」、「社会基盤」の面で脱炭素社会への転換が進んでいるとの考えが以前から強い。中央政府では「一般の人々の意識」が年々良い方向に変わってきていると考えている。
  • 世代別に見ると、20代、30代の若い世代は、他の世代に比べて「政策、法制度」、「社会基盤」の面で脱炭素社会への転換が進んでいるとの考えが強い。これには若い世代の回答者に中国の若者が多いことが反映されている。
表8 「脱炭素社会への転換の進み具合」に関する世界平均と地域、属性別平均

問2-2 取組みに改善の兆しが見られることを、表5の“地球環境の変化を示す項目”から1つ選んでお答えください。


表9 改善の兆しがあると選択された項目の選択率と改善の兆しの指標値の推移

問2-2について、、「一般の人々の意識」、「政策・法制度」、「社会基盤」の三つの視点から問2-1と同様に分析した結果を表9に示す。

  • 改善の兆しがある項目として、2023年に多く選ばれたのは、「気候変動」(27.0%)で、次いで、「社会、経済と環境、政策、施策」(16.3%)、「ライフスタイル(消費性向)」(12.7%)の順であった。この傾向は2019年以来変わっていない。「全く改善の兆しはない」という回答は16.6%あった。
  • 「 気候変動」は、問1で、環境危機時計®の時刻を考える上で重要な項目として最も多く選ばれており、「気候変動」の問題と、その改善への取組みについては世界的に関心が高いことがうかがわれる。
  • 問1で2番目に多く選ばれ、項目の中で環境危機時計®の時刻が最も進んでいる「生物圏保全性(生物多様性)」は、取組みに改善の兆しが見られる項目としては5番目の選択率になっている。「生物圏保全性(生物多様性)」については、「一般の人々の意識」「政策・法制度」、「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」すべての面で昨年よりポイントが低下している。 とくに「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の値は最小になっている。
一番多く選ばれた「気候変動」について、全回答の平均値と、標本数が15以上の地域・組織・世代ごとの平均値を表10に示す。


表10 改善の兆し「気候変動」に関する 世界平均と地域、属性別平均
  • 「 一般の人々の意識」の2023年世界平均は+1.28で、昨年と同じレベルである。昨年に引き続き、2023年にも、オセアニア、北米、西欧では、+1.4以上の高い値になっている。
  • 「 政策・法制度」の2023年世界平均は+0.82であるが、中国は+1.40と、他の地域よりも圧倒的に大きくなっている。一方、南米では+0.40と最も低くなっている。
  • 「 社会基盤」の2023年世界平均は+0.66で、地域別では、アジア、オセアニア、北米、西欧はこれより高めで、南米、アフリカは+0.40以下で非常に低い。
  • 2021年から2023年にかけてみると、オセアニアでは、「政策、法制度」の面で2023年に値が大きくなり、「社会基盤」については、2年連続で改善の兆しが見られた。
  • 組織別に見ると、中央政府では、2023年に「一般の人々の意識」の面で最も高い1.50の値を示した。
  • 世代別に見ると、20代、30代の若い世代は、他の世代に比べて「政策、法制度」、「社会基盤」の面で気候変動への対策が進んでいるとの考えが強い。これには若い世代の回答者に中国の若者が多いことが反映されている。
※ 気候変動以外の項目については、国、地域ごとの標本数が少ないため、データ分析は行わなかった。

Ⅲ-3 持続可能な開発(SDGs)の達成可能性に関する認識

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問3-1  あなたが日々の生活で、関心を持っていることを17ある目標の中から3つ選び、関心が高いものから順に1 位、2 位、3 位を番号でお答えください。

日々の生活で関心が高い目標として選ばれた1位、2位、3位の回答を1~3位の百分率の積上げで解析し、各項目を比較した結果を表11に示す。
表11 日々の生活で関心を持っている目標(1位~ 3位の積上げ、複数回答)
  • 世界全体でみると、日々の生活で関心を持っている目標として、「13.気候変動に具体的な対策を」、「3.すべての人に健康と福祉を」、「7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、「15.陸の豊かさを守ろう」が、多くの国で選ばれた。目標3,7が選ばれていることは、COVID-19のパンデミックを経験したあとで、日々の健康を願い、最近のエネルギー価格の高騰に困惑する回答者の気持ちが表れている。
  • 「 3.すべての人に健康と福祉を」は、とくにアジア、オセアニアで多く選ばれた。
  • 「 7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」は、アジア、東欧・旧ソ連で多く選ばれた。
  • 「 15.陸の豊かさを守ろう」は、北米、メキシコ・中米・カリブ諸国、南米、西欧、アフリカと非常に多くの地域で選ばれた。
  • 東欧・旧ソ連では、「16.平和と公正をすべての人に」が最も多く選ばれた。

問3-2  あなたが世界の問題として、関心が高いことを17ある目標の中から3つ選び、関心が高いものから順に1 位、2 位、3 位を番号でお答えください。

世界の問題として関心が高いとして選ばれた1位、2位、3位の回答を1~3位の百分率の積上げで解析し、各項目を比較した結果を表12に示す。
表12 世界の問題として関心が高い目標
  • 世界の問題として関心が高い目標に、「13.気候変動に具体的な対策を」がすべての国、地域で最も多く選ばれた。これに「1.貧困をなくそう」、「16.平和と公正をすべての人に」が続く。これらの目標の実現について世界で多くの人が関心を持っている。
  • 日々の生活の中で関心が高いのは、「13.気候変動に具体的な対策を」、「3.すべての人に健康と福祉を」、「7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」であったが、同時に世界の問題として気候変動について強い強い懸念を抱いている。
  • 表11、12を合わせてみると、世界の多くの人が気候変動の問題を身近な問題としてとらえ、日々の生活の中でも関心を持っていることがわかる。

問4-1  あなたがお住まいの国または地域で、17ある目標の中で2030年に達成度が高いと思う目標を3つ選び、高いものから順に1位、2位、3位を、目標の番号でお答えください。

達成度が高いと思う目標として選ばれた1位、2位、3位の回答を1~3位の百分率の積上げで解析し、各項目を比較した結果を表13に示す。
表13 お住まいの国・地域で2030年に達成度が高いと思う目標
  • 自分の住む国・地域で2030年に達成度が高いと思う目標として、世界平均としては、「6.安全な水とトイレを世界中に」、「4.質の高い教育をみんなに」、「2.飢餓をゼロに」の三つが選ばれている国・地域が多い。これらは昨年の結果と同じである。
  • 世界では「4.質の高い教育をみんなに」の達成度が高いと思うと回答した人が多い中、メキシコ・中米・カリブ諸国、南米では、この目標の達成度が高いと回答した人が少ない。
  • インド、オーストラリア、中東では、「13.気候変動に具体的な対策を」の達成度が高いとした回答者が多い。
  • アジアでは、「7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」の達成度が高いと回答した人が他の地域より少ない
  • 「 13.気候変動に具体的な対策を」は、世界的な問題として多くの人が関心を持っているが、自国でこの目標の達成度が高いと考える国・地域は限られている。
  • 「 5.ジェンダー平等を実現しよう」は、アジア、中東、東欧・旧ソ連では2030年時点での達成度が高いと思われていないが、メキシコ・中米・カリブ諸国、南米、西欧では達成度が高いと考えられている。

問4-1  あなたがお住まいの国または地域で、17ある目標の中で2030年に達成度が低いと思うものを3 つ選び、低いものから順に1位、2位、3位を、目標の番号でお答えください。

達成度が高いと思う目標として選ばれた1位、2位、3位の回答を1~3位の百分率の積上げで解析し、各項目を比較した結果を表13に示す。
表14 お住まいの国・地域で2030年に達成度が低いと思う目標
  • 自分の住む国・地域で2030年に達成度が低いと思う目標として、「1.貧困をなくそう」、「13.気候変動に具体的な対策を」、「10.人や国の不平等をなくそう」の三つを選んだ回答者が多かった。これらは世界的に共通の課題である。
  • 「 1.貧困をなくそう」が世界の多くの国で、世界で2030年に達成度が低いと思う目標に選ばれた。さらに、「2.飢餓をゼロに」が南米、アフリカ、中東では達成度の低い目標の上位3つに入った。
  • 「 5.ジェンダー平等を実現しよう」の自国での実現が難しいと考えている回答者が、特に日本、中国、韓国に多い。
  • 「 12.つくる責任つかう責任」が、自国での達成度が低いと思う目標に選んだ回答者は、オセアニア、北米、西欧に多かった。
  • 領土問題、紛争、戦争などに関わっている台湾、中東、東欧・旧ソ連では、「16.平和と公正をすべての人に」が他の地域に比べて達成度が低いと考えられている。

Ⅳ. おわりに

 世界の環境危機時計®の時刻は2020年の9時47分から2023年の9時31分まで連続して合計16分戻った。昨年若い回答者の影響で38分戻った中国でも今年さらに9分戻り、南米で21分、西欧で13分、中東で17分戻った。一方、メキシコ・中米・カリブ諸国で26分、東欧・旧ソ連では24分、針は進んだ。環境問題に変化を感じた地域が多かったようである。

 また、環境危機時計®の時刻を決める際に選択する「地球環境の変化を示す項目」では、「気候変動」が他の項目に比べ圧倒的に多い30%の人々に選ばれ、世界で気候変動が喫緊の問題と認識されていることがわかる。

 2023年も、パリ協定、SDGsが採択された2015年以前と比較して改善の兆しが見られるかという意識調査も行った。「一般の人々の意識」や「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」は国や地域ごとに状況が異なっているので、全世界の平均値と地域・国ごとの平均値を合わせて表にまとめ、2021年からの推移がわかるようにした。

 問2-1の脱炭素社会への転換については、世界全体では「一般の人々の意識」に比べて、「政策、法制度」、「社会基盤」の面では進んでいないという結果であった。

 問2-2で、取組みに改善の兆しが見られる上位項目は、「気候変動」(27.0%) 、「社会、経済と環境、政策、施策」(16.3%) 、「ライフスタイル(消費性向)」(12.7%)の順であった。過去3年とも「気候変動」を選ぶ割合が最も高く、「気候変動」の問題と、その改善への取り組みについては一般の人々の意識も高い。

 2030年までに達成すべき目標であるSDGsについて、日々の生活における関心と世界の問題としての関心という二つの切り口で質問した。その結果、「13. 気候問題に具体的な対策を」が、日々の生活の中の関心としても世界の問題としても1位となり、気候問題という世界的な問題を日々の生活の中でも意識することが多くなっていることがわかる。日々の生活の中の関心として「3. 全ての人に健康と福祉を」、「7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに」が続いて選ばれ、新型コロナウイルス感染症に不安を感じ、エネルギー価格の高騰に困惑する一般の人々の気持ちが垣間見られた。

 今年も自国での2030年時点でのSDGsの達成度に関して質問した。達成度が高いと思う目標は地域によって比較的ばらつきがあるが、達成度が低いと思う目標として、多くの国で「1.貧困をなくそう」と「10.人や国の不平等をなくそう」の二つが選ばれた。貧困と不平等の解消は世界の人々の共通の願いといえるだろう。

最後に、今年もアンケート回答期間直前の一年間の、環境に関する世界の主な出来事をまとめた表を参考資料として作成した。報告書の結果を自分なりに読み解く際に、この表を参考にしていただきたい。

今後、しばらくの間、上記の質問を続けていく予定であり、来年もアンケートに協力していただけると幸いである。
番号 項目 あなたがお住まいの国または地域で観察されること(例) プラネタリー・
バウンダリーズ(PB)
関連するSDGs(持続可能な開発目標)
1 気候変動 大気中CO2濃度や地球温暖化、海洋酸性度の増加
旱ばつ、大雨・洪水、暴風雨、大雪、異常低温・高温、河川・湖沼の干上がり、砂漠化などの悪化(増加、頻発化、巨大化)
気候変動、
海洋の酸性化、
大気煙霧質、
オゾン減少
2 生物圏保全性(生物多様性) 絶滅する生物種(見かけなくなった生物)の増加、(汚染、気候変動、土地利用等も関連) 遺伝子多様性、
機能性の多様性
3 陸域系の変化(土地利用) 特に熱帯、温帯、亜寒帯の生物圏の森林領域面積の変化
耕作域面積の変化
陸域系の変化
4 生物化学フロー(環境汚染) 過剰な窒素やリン分による富栄養化や化学物質やマイクロプラスチックスなどによる河川・海洋・土壌汚染の増加
浮遊物質や煤、化学物質による大気汚染の増加
化学物質による汚染、
窒素とリンの循環
5 水資源 枯渇や汚染による利用可能な淡水の減少
グリーンウォーター(土壌に含まれる植物が利用する水)の管理や質の低下
淡水
6 人口 地域や国全体の人口増加
国全体の人口増減とは無関係な都市人口の増加
ほぼ全てのPBの領域に関連
7 食糧 陸や海の食糧資源の減少 ほぼ全てのPBの領域に関連
8 ライフスタイル(消費性向) エネルギー・資源多消費型ライフスタイルからの転換 ほぼ全てのPBの領域に関連
9 社会、経済と環境、政策、施策 環境経済、環境会計を柱とするグリーンエコノミーの実現
環境問題に対する認識や環境教育の進展、法制度、社会基盤
貧困問題の解決、ガバナンス、女性の社会的地位
ほぼ全てのPBの領域に関連
プラネタリー・バウンダリーズ:Will Steffen, Katherine Richardson, Johan Rockstrom et.al. Science 13 Feb 2015 vol. 347, issue 6223

2023年 アンケート自由記述ご意見

注)以下に掲載の記述回答文の内容は、回答者個人のご意見で有り、財団の見解を代表するものではありません。
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表中のご意見は、一部抜粋となっているものもあります。

2023年 SDGsに関するご意見

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表中のご意見は、一部抜粋となっているものもあります。

2023年 地球環境の変化を示す項目(第1 ~ 3位選択)の分布(項目ごとの危機時刻と支持率)

2023年 環境問題への取り組みの改善の兆しに関する認識