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地球環境問題と人類存続に関するアンケート 調査報告

本報告書は、当財団が1992年より実施している「地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」の2021年の調査結果をまとめたものです。本年度もより多くの方々へ環境問題の有識者による地球環境に関する現状認識をお伝えしたいと存じます。

2021年の環境アンケートの回答期間の4月、5月は、昨年からの新型コロナウィルス感染症 (COVID-19)が世界的に感染拡大している状態でした。郵便事情も悪化し多くの郵便物が配達不可で戻ってきました。そうした中で、学術誌やウェブサイト情報を元にアンケート回答者数の拡大を図ったこともあり、最終的には1,893人からの回答が得られ(2020年は1,813 件)、昨年と比べて4%強の増加となりました。まだまだ大変な時期に、世界のほとんどの地域の人々がアンケートに参加してくださったことにお礼を申し上げるとともに、今年も御報告できることを嬉しく思います。

今年は環境危機時計®の時刻(環境危機時刻)が9時42分になりました。2018年に9時47分で時刻が最も進み、2019年に9時46分、2020年に9時47分と3年連続で高い危機意識を示す結果となっていましたが、2021年には5分針が戻りました。5分以上針が戻ったのは、近年では2012年(9時23分)から2013年(9時19分)に4分戻って以来、8年ぶりのことです。

2019年から設けた改善の兆しに関する質問では、改善の兆しがある項目として3年連続で「気候変動」が最も多く選ばれ、一般の人々の意識が改善されていると回答した割合も2年連続で増加し、人々の気候変動への意識が高まってきていることがうかがわれます。更に今年は、SDGsに関する質問も追加し、人類共通の問題への意識を調査しましたのでご覧ください。

多くの方からの回答とともに、有意義なご意見やコメントも多数頂きました。
今年も、各国の回答者のコメントは「アンケート自由記述検索」から閲覧できますので、環境問題に関する有識者の生の声をぜひご覧ください。

われわれは、本環境アンケートを通じて環境問題に関わる人のみならず、より多くの方々に環境への関心を持って頂くことにより、地球環境問題の解決に微力ながら貢献することを切に願っております。

ご回答頂いた方々へ今一度心からお礼を申し上げます。また、今後も皆様方からの貴重なご助言・ご指導を賜りますよう何とぞよろしくお願い申し上げます。
2021年9月
公益財団法人 旭硝子財団

Ⅰ 調査の概要

調査時期2021年4月から6月
調査対象 世界各国の政府・自治体、NGO/NPO 、大学・研究機関、企業、マス・メディア、民間等の環境問題に関する有識者
(旭硝子財団保有データベースに基づく)
送付数31,806(海外 30,241 + 国内1,565)
回収数1,893
回収率6.0%
表1. 地域・組織別の回収結果

※本報告書における分析の百分率のベースは、特に説明がない限り、単一回答の設問については回収票数、複数回答の設問については有効回答の延回答件数を使用している。

※数値は小数点第1位もしくは第2位を四捨五入してある。

※延回答件数ベース:回収票数ではなく、その質問に対してなされた回答の延件数を基数とする。

Ⅱ. 調査結果の概要

Ⅱ-1 .人類存続の危機に関する認識̶環境危機時計®

  • 世界の環境危機時計®の時刻(環境危機時刻)は、2018年以来3年連続で、9時46~47分の高い危機意識を示す結果が続いていたが、今年は9時42分で昨年より5分針が戻った。前年より4分以上針が戻るのは8年ぶりである。
  • 世界各地域の環境危機時刻を見ると、昨年に比べ米国で34分と大幅に戻り、他のほとんどの地域でも時刻は戻っている。2021年1月の米国のパリ協定再加盟が影響した可能性がある。
  • 日本の環境危機時刻は9時36分となり昨年に比べ針が10分戻った。
  • 世界全体の環境危機時刻を決定する際に選ばれた「地球環境の変化を示す項目」は、選択率が高い順に、「気候変動 (31%)」、「生物圏保全性(生物多様性)(14%)」、「社会、経済と環境、政策、施策 (12%)」。
  • 世界全体の「地球環境の変化を示す項目」を環境危機時刻順に並べると、「生物圏保全性(生物多様性)(9時54分)」、「生物化学フロー(環境汚染)(9時53分)」の2項目が世界の環境危機時刻(9時42分)より10分以上進んでいる。

Ⅱ-2 .環境問題への取り組みの改善の兆しに関する認識 -パリ協定、SDGsが採択された2015年以前との比較

「一般の人々の意識」、「政策・法制度」、「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の三つの観点から環境問題への取り組みに対する改善の兆しを探るため、2019年から、「脱炭素社会への転換」と「地球環境の変化を示す項目」の二つについて質問をした。
  • 脱炭素社会への転換については、「政策・法制度」や「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の面は、「一般の人々の意識」の面ほど進んでいない。しかし、2019年から2年連続で、どちらの面も改善の方向にシフトしている。
  • 改善の兆しがある項目として、多く選ばれたのは、「気候変動」(27.7%)で、次に、「社会、経済と環境、政策、施策」(18.0%)「ライフスタイル(消費性向)」(16.5%)となった。2019年の結果と比較すると、「一般の人々の意識」、「政策・法制度」は改善の方向にシフトしたが、「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」は改善されていない方向にシフトした。「全く改善の兆しはない」という回答も14.1%あった。

Ⅱ-3 .持続可能な開発(SDGs)の達成可能性に関する認識

  • 世界で2030年に達成度が高いと思う目標として、「9. 産業と技術革新の基礎をつくろう」、「13 .気候変動に具体的な対策を」が1, 2位で、多くの国で選ばれている。
  • 世界で2030年に達成度が低いと思う目標として、「1. 貧困をなくそう」が最も多く選ばれ、これに「2. 飢餓をゼロに」、「10.人や国の不平等をなくそう」が続く。世界で多くの人がこれらの目標の実現は難しいと考えていることがわかる。
  • 自国・地域で2030年に達成度が高いと思う目標として、「9. 産業と技術革新の基盤をつくろう」、「4. 質の高い教育をみんなに」、「6. 安全な水とトイレを世界中に」の三つが多く選ばれた。
  • 自国・地域で2030年に達成度が低いと思う目標として、「1. 貧困をなくそう」、「10. 人や国の不平等をなくそう」の二つを選ぶ人が多かった。これらは、世界を見た時にも2030年に達成度が低いと思う目標に選ばれており、世界的に共通の課題である。

Ⅲ. 調査結果

Ⅲ-1 人類存続の危機に関する認識- 環境危機時計®

結果を表示折りたたむ

問1 8ページの表5は“地球環境の変化を示す項目”です。地球全体の問題を念頭に置きながら、あなたがお住まいの国または地域における環境問題を考える上で重要な項目を3つ選んで1位~ 3位の順位付けをし、それぞれ時計の針に例えて0:10 ~ 12:00 の範囲で○○時○○分と答えてください。時刻は便宜上、10分単位でご記入下さい。

※危機時刻の決定法について
 1位から3位の時刻の加重平均(1位:50%、2位:30%、3位:20%)として環境危機時刻を決定します。
 有効な回答が、1位と2位だけの場合は1位:62.5%、2位:37.5%。1位だけの場合は100%としています。

図1. 環境危機時刻

Ⅲ-1-1 世界の環境危機時刻

表2 環境危機時刻の推移(世界)

図2 世界と日本の環境危機時刻の推移
  • 世界の環境危機時刻は2011年以来、進む傾向にあったが、2021年には2013年以降初めて針が4分以上戻った。

図3 世界各地域の環境危機時刻

表3 世界各地域の環境危機時刻の推移
  • 世界の環境危機時刻®は9時42分となり昨年より5分戻った。
  • 日本の環境危機時刻®は9時36分となり昨年より10分戻った。
  • 世界各地域の環境危機時刻を見ると、昨年に比べ北米で30分と大幅に戻り、他のほとんどの地域でも時刻は戻っている。2021年1月に米国がパリ協定に再加盟したことが大きく影響した可能性がある。
  • 北米の環境危機時刻は、30分戻って10時3分となったが、北米は、依然としてオセアニア、西欧に次いで高い危機意識のレベルにある。

回答者の年齢層による環境危機時刻の過去10年の推移(2012年~2021年)


過去10年間の環境危機時刻の世代別推移を表4,図4に示す。
表4. 環境危機時刻の世代別推移
  • 60代以上の回答者は、他の世代よりも進んだ環境危機時刻を回答する傾向がある。
  • 10年前には20代、30代の環境危機意識は他の世代より明らかに低かったが、近年は全世代の危機意識がそろってきている。
  • 全世代とも危機意識は年々高くなる傾向にあったが、今年は8年ぶりに全世代で時刻が戻った。
  • 40代、50代、60代以上の環境危機時刻は、2016年から2019年まで進む傾向にあったが、昨年、今年と2年連続して針が戻った。
  • 20代、30代の環境危機時刻は、2013年の9時1分から上昇傾向にあり、2018年には中国の20代、30代の回答者の危機意識が高くなった影響を受け10時00分となったが、2019年以降は9時40分台に戻った。

図4. 環境危機時刻の世代別推移

Ⅲ-1-2. 地球環境の変化を示す項目

表5. 地球環境の変化を示す項目

図5 持続可能な開発目標 (SDGs)

Ⅲ-1-2-1  地球環境の変化を示す項目の分布

図6-1 地球環境の変化を示す項目(第1 ~ 3位選択)の分布 (環境危機時刻と選択率), 2021年
  • 世界全体の環境危機時刻を決定する際に選ばれた「地球環境の変化を示す項目」は、昨年と同様に「気候変動」(31%)、「生物圏保全性(生物多様性)」(14%)、「社会、経済と環境、政策、施策」(12%)が上位3 項目であり、これに「水資源」(9%)、「生物化学フロー(環境汚染)」(9%)、「ライフスタイル(消費性向)」(7%)、「陸域系の変化(土地利用)」(7%)、「人口」(7%)、「食糧」(4%)と続いた。各項目の占める割合は昨年からほとんど変わっていない。
  • 同じく世界全体の「地球環境の変化を示す項目」を環境危機時刻順に並べると、「生物圏保全性(生物多様性)」(9時54分)、「生物化学フロー(環境汚染)」(9時53分)、「人口」(9時45分)「ライフスタイル(消費性向)」(9時44分)、「陸域系の変化(土地利用)」(9時43分)が世界平均(9時42分)よりも進んでおり、これらに続いて、「気候変動」(9時41分)、「水資源」(9時38分)、「社会、経済と環境、政策、施策」(9時34分)、「食糧」(9時30分)の順となった。
  • 「生物圏保全性(生物多様性)」の時刻が最も進んでいるのは例年通りだが、ここ数年で「生物化学フロー(環境汚染)」の時刻は他の項目に比べ進んできている。
図6-2 地球環境の変化を示す項目(第1 ~ 3位選択)の分布 (環境危機時刻と選択率), 2020年

図6-3 地球環境の変化を示す項目(第1 ~ 3位選択)の分布 (環境危機時刻と選択率), 2019年

Ⅲ-1-2-2 環境危機時刻/選択率の分布の年次変化

図7 環境危機時刻/選択率の分布の年次変化 (2012年~2021年度)
  • 過去10年間を見ると、「気候変動」は、選択率が増加し、環境危機時刻は進む傾向にある。それ以外の項目は、選択率の変動はあまり大きくなく、環境危機時刻は9時から10時ごろの間を変動している。

Ⅲ-1-2-3 各地域の地球環境の変化を示す項目の選択傾向

表6 各地域の地球環境の変化を示す項目の選択傾向
  • 世界全体で最も多く選ばれた「地球環境の変化を示す項目」は、昨年と同じ「気候変動」(31%)で、次いで、「生物圏保全性(生物多様性)」(14%)で、これは多くの地域で見られる傾向である。
  • アジアに着目すると、「気候変動」の次の項目はインドでは「人口」、中国では「水資源」、台湾では「生物化学フロー(環境汚染)」、韓国では「ライフスタイル(消費性向)」、日本では、「社会、経済と環境、政策、施策」が選ばれ、同じアジアの中でも違いが見られる。
  • 世界のほとんどの地域で、「気候変動」が選択率第1位であるが、南米では「生物圏保全性(生物多様性)」が第1位である。南米では2020年にも「生物圏保全性(生物多様性)」と「陸域系の変化(土地利用)」が「気候変動」を抑えて1,2位を占めていた。

Ⅲ-1-2-4 地球環境の変化を示す項目の環境危機時刻の地域分布

表7 地球環境の変化を示す項目の環境危機時刻の地域分布
  • 世界の環境危機時刻は9時42分であるが、「生物圏保全性(生物多様性)」(9時54分)、「生物化学フロー(環境汚染)」(9時53分)の2項目のみがこれよりも10分以上進んでいる。
  • 地域ごとに見て危機意識が高いのは、オセアニアの「気候変動」(10時49分)、北米の「人口」(10時41分)、西欧の「生物圏保全性(生物多様性)」(10時35分)である。

Ⅲ-2 環境問題への取り組みの改善の兆しに関する認識

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環境問題への取組みに改善の兆しは見られますか。パリ協定、SDGsが採択された2015年以前と比較して以下の3つの観点からお答えください。

 環境問題への取組みに対する改善の兆しとして、「一般の人々の意識」、「政策・法制度」、社会基盤「資金・人材・技術・設備」の三つの要素があると仮定し、脱炭素社会への転換と「地球環境の変化を示す項目」別に質問をした。
 回答の「全く進んでいない」を-2、「どちらかといえば進んでいない」を-1、「どちらともいえない」を0、「どちらかといえば進んでいる」を+1、「確実に進んでいる」を+2として数値化し平均値を算出した。
 地域・国ごとの平均値の算出にあたっては、30 以上の標本数を対象にした。

問2-1 脱炭素社会への転換は進んでいると思いますか?

 全世界の平均値と地域・国ごとの平均値を表8に示す。

世界平均は下記の通りとなった。
  • 一般の人々の意識+0.61(+0.52)
  • 政策、法制度+0.29(+0.27)
  • 資金・人材・技術・設備+0.36(+0.32)

  • 全体として、脱炭素社会への転換については、「政策・法制度」や「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の面は、「一般の人々の意識」ほど進んでいないという結果となった。しかし、表8から、どの面においても、2019年から2年連続で脱炭素社会への転換が進みつつあるとの考えが強まってきていることがうかがわれる。
  • 地域により「一般の人々の意識」と「政策、法制度」の進み具合のとらえ方に差が見られた。インド、中国、台湾では両者の差は小さく、「政策、法制度」が「一般の人々の意識」よりやや進んでいるという結果であった。これに対し、オーストラリア、北米、西欧では両者の差が大きく、「政策、法制度」が「一般の人々の意識」よりも大きく遅れているという結果となっている。上記の傾向は2019年以来変わっていない。
  • 日本、米国、カナダでは、2020年から2021年にかけて「政策・法制度」や「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の面で脱炭素社会への転換が進んでいるとの考えが強まった。
  • 中国では3年連続で、「政策・法制度」、「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の面で脱炭素社会への転換が進んでいると考えているとの意識が強い。
  • 韓国では3年連続で、回答はすべての要素において「進んでいない」という結果であった。
  • アフリカ、東欧・旧ソ連では、2020年から2021年にかけて、「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の面で大きくポイントが低下した。
  • 組織別には企業関係者にも「政策・法制度」、「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の面で脱炭素社会への転換が進んでいるとの考えが強まった。
  • 世代別に見ると、20代、30代の若い世代は、「一般の人々の意識」よりも「政策、法制度」のほうが進んでいると考え、40代以上では、政府の対策が遅れているととらえる傾向にある。
表8 「脱炭素社会への転換の進み具合」に関する世界平均と地域、属性別平均

問2-2 取組みに改善の兆しが見られることを、7ページ、表2の“地球環境の変化を示す項目”から1つ選んでお答えください。


表9 改善の兆しがあると選択された項目の選択率と改善の兆しの指標値の推移
  • 改善の兆しがある項目として、2021年に多く選ばれたのは、「気候変動」(27.7%)で、次いで、「社会、経済と環境、政策、施策」(18.0%)、「ライフスタイル(消費性向)」(16.5%)の順であった。「全く改善の兆しはない」という回答は14.1%あった。問2-1と同様に数値化し、結果を表9に示す。この傾向は2019年以来変わっていない。
  • 「気候変動」は、問1で、環境問題を考える上で重要な項目として最も多く選ばれており「、気候変動」の問題と、その改善への取組みについては世界的に関心が高いことがうかがわれる。一方、問1で2番目に多く選ばれ、項目の中で環境危機時刻が最も進んでいる「生物圏保全性(生物多様性)」は、取組みに改善の兆しが見られる項目としては4番目になっている。改善の兆しは多くはないものの、「一般の人々の意識」を見ると2019年以来、少しずつではあるが改善していると考えられていることがわかる。
一番多く選ばれた「気候変動」について、全回答の平均値と、標本数が15以上の地域・組織・世代ごとの平均値を表10に示す。

表10 改善の兆し「気候変動」に関する 世界平均と地域、属性別平均
  • 「一般の人々の意識」の2021年世界平均は+1.33となり、全世界的に改善の兆しがあり、 2年連続で増えている。特に2021年に、オセアニア、北米、西欧では、+1.5以上の高い値になっている。
  • 「政策・法制度」の2021年世界平均は+0.81であるが、中国は+1.38と、他の地域よりも圧倒的に大きくなっている。
  • 「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の2021年世界平均は+0.72で、中国、西欧はこれより高めで、インド、オセアニア、南米、アフリカは低い傾向にある。
  • 2020年から2021年にかけて、日本とカナダ、米国では、「政策、法制度」で、大きな改善の兆しが見られた。
  • 東欧・旧ソ連では、昨年から3つの観点すべてにおいてポイントが大きく低下した。

※ 気候変動以外の項目については、国、地域ごとの標本数が少ないため、データ分析は行わなかった。

Ⅲ-3 持続可能な開発(SDGs)の達成可能性に関する認識

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持続可能な開発目標 (SDGs)の達成可能性に関して、世界平均で見たときと、自分が住む国・地域で見たときに、17ある目標の中で2030年に達成度が高いと思う目標、低いと思う目標を3つずつ選び、それぞれ高いもの、低いものから順に1位、2位、3位を選んでもらった。回答は1~3位の百分率の積上げで解析し、各項目を比較した結果を表11~14に示す。
表11 世界で2030年に達成度が高いと思う目標(1位~ 3位の積上げ、複数回答)
  • 世界で2030年に達成度が高いと思う目標として、「9.産業と技術革新の基礎をつくろう」、「13.気候変動に具体的な対策を」が1, 2位で、多くの国で選ばれており、「7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」が3位となっている。
  • 「17.パートナーシップで目標を達成しよう」は、アジアではあまり選ばれていないが、その他の地域では多く選ばれている。
  • 「3.すべての人に健康と福祉を」は、インド、台湾、韓国で多く選ばれている。

表12 世界で2030年に達成度が低いと思う目標
  • 世界で2030年に達成度が低いと思う目標として、「1.貧困をなくそう」が最も多く選ばれ、これに「2.飢餓をゼロに」、「10.人や国の不平等をなくそう」が続き、これらの目標の実現は世界で多くの人が難しいと考えていることがわかる。
  • 日本、韓国、西欧、中東では、「16.平和と公正をすべての人に」の達成が難しいと考えている人が多い。
  • 世界で2030年に達成度が低いと思う目標は、達成度が高いと思う目標に比べて、地域によるばらつきが小さく、人類共通の難題が凝縮されている。

表13 お住まいの国・地域で2030年に達成度が高いと思う目標
  • 自分の住む国・地域で2030年に達成度が高いと思う目標として、「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」、「4.質の高い教育をみんなに」、「6.安全な水とトイレを世界中に」の三つが選ばれている国・地域が多い。
  • アジアではすべての国で「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」が選ばれているのは興味深い。
  • 「13.気候変動に具体的な対策を」は、世界で2030年に達成度が高いと思う目標として、ほとんどの国で選ばれているが、自国でこの目標の達成度が高いと考える人は限られている。
  • 「4.質の高い教育をみんなに」は、世界で2030年に達成度が高いと思う目標として、上位に選ばれていないが、自国でこの目標の達成度が高いと考える国が多い。
  • 「17.パートナーシップで目標を達成しよう」は、世界で2030年に達成度が高いと思う目標としてアジア以外で選ばれているが、自国でこの目標の達成度が高いと考える国は少ない。

表14 お住まいの国・地域で2030年に達成度が低いと思う目標
  • 自分の住む国・地域で2030年に達成度が低いと思う目標として、「1.貧困をなくそう」、「10.人や国の不平等をなくそう」の二つを選ぶ人が多かった。これらは、世界を見た時にも2030年に達成度が低いと思う目標に選ばれており、世界的に共通の課題である。
  • 「2.飢餓をゼロに」は世界のほとんどの国で、世界で2030年に達成度が低いと思う目標に選ばれているが、自国について、「2.飢餓をゼロに」を選んだのは、メキシコ・中米・カリブ諸国、南米、アフリカで、これらの地域では「2.飢餓をゼロに」が大きな問題であることがわかる。
  • 「5.ジェンダー平等を実現しよう」の自国での実現が難しいと考えている人が、世界の中でもアジアの日本、インド、韓国に多い。
  • 「12.つくる責任つかう責任」、「13.気候変動に具体的な対策を」、「14.海の豊かさを守ろう」、「15.陸の豊かさを守ろう」の3項目は、自国では世界で2030年に達成度が低いと思う目標に選ぶ国が多いが、世界を見た時には、「1.貧困をなくそう」、「2.飢餓をゼロに」、「10.人や国の不平等をなくそう」のほうが、達成度は低いと考えられている。

Ⅳ. おわりに

 2018年以来3年連続で環境危機時刻は9時46 ~ 47分となり、過去最高レベルの危機意識が持続してきたが、2021年の環境危機時計®の時刻は9時42分と昨年の時刻から5分戻った。これがパリ協定の目標達成へ向けての第一歩を意味していると期待したい。また、環境危機時刻を決める際に選択する「地球環境の変化を示す項目」では、「気候変動」が他の項目に比べ圧倒的に多い31%の人々に選ばれ、2013年以来、選択率が増加傾向にあることからも、気候変動が喫緊の問題と認識されていることがわかる。

 昨年に引き続き、パリ協定、SDGsが採択された2015年以前と比較して改善の兆しが見られるかという意識調査も行った。「政策、法制度」や「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」は国や地域ごとに状況が異なっているので、全世界の平均値と地域・国ごとの平均値を合わせて表にまとめ、2019年からの推移がわかるようにした。

 問2-1の脱炭素社会への転換については、地域により「一般の人々の意識」と「政策、法制度」の進み具合のとらえ方に差が見られたが、どちらについても、2019年から3年連続で脱炭素社会への転換が進みつつあると考えている人が増えていることがうかがわれる。

 問2-2で、取組みに改善の兆しが見られる上位項目は、「気候変動」(27.7%)、「社会、経済と環境、政策、施策」(18.0%)、「ライフスタイル(消費性向)」(16.5%)の順であった。「気候変動」は、環境問題を考える上で重要な項目として最も多く選ばれており、「気候変動」の問題と、その改善への取り組みについては世界的に関心が高い。

 2030年までに達成すべき課題であるSDGsについて、今年はその達成度に関する質問を加えた。達成度が高いと思う目標は地域によって比較的ばらつきがあるが、達成度が低いと思う目標としては、ほとんどの国で「1 .貧困をなくそう」と「10 .人や国の不平等をなくそう」の二つが選ばれ、これらが人類共通の大きな課題であることがはっきりと浮かび上がった。

 今後、しばらくの間、上記の質問を続けて、全世界の平均値と地域・国ごとのばらつきに注目して調査を続けていく予定である。

 最後に、今年からアンケート回答期間直前の一年間の、環境に関する世界の主な出来事をまとめた表を参考資料として作成した。報告書の結果を自分なりに読み解く際に、この表を参考にしていただければ幸いである。
番号 項目 あなたがお住まいの国または地域で観察されること(例) プラネタリー・
バウンダリーズ(PB)
関連するSDGs(持続可能な開発目標)
1 気候変動 大気中CO2濃度や地球温暖化、海洋酸性度の増加
旱ばつ、大雨・洪水、暴風雨、大雪、異常低温・高温、河川・湖沼の干上がり、砂漠化などの悪化(増加、頻発化、巨大化)
気候変動、
海洋の酸性化、
大気煙霧質、
オゾン減少
2 生物圏保全性(生物多様性) 絶滅する生物種(見かけなくなった生物)の増加、(汚染、気候変動、土地利用等も関連) 遺伝子多様性、
機能性の多様性
3 陸域系の変化(土地利用) 特に熱帯、温帯、亜寒帯の生物圏の森林領域面積の変化
耕作域面積の変化
陸域系の変化
4 生物化学フロー(環境汚染) 過剰な窒素やリン分による富栄養化や化学物質やマイクロプラスチックスなどによる河川・海洋・土壌汚染の増加
浮遊物質や煤、化学物質による大気汚染の増加
化学物質による汚染、
窒素とリンの循環
5 水資源 枯渇や汚染による利用可能な淡水の減少
グリーンウォーター(土壌に含まれる植物が利用する水)の管理や質の低下
淡水
6 人口 地域や国全体の人口増加
国全体の人口増減とは無関係な都市人口の増加
ほぼ全てのPBの領域に関連
7 食糧 陸や海の食糧資源の減少 ほぼ全てのPBの領域に関連
8 ライフスタイル(消費性向) エネルギー・資源多消費型ライフスタイルからの転換 ほぼ全てのPBの領域に関連
9 社会、経済と環境、政策、施策 環境経済、環境会計を柱とするグリーンエコノミーの実現
環境問題に対する認識や環境教育の進展、法制度、社会基盤
貧困問題の解決、ガバナンス、女性の社会的地位
ほぼ全てのPBの領域に関連
プラネタリー・バウンダリーズ:Will Steffen, Katherine Richardson, Johan Rockstrom et.al. Science 13 Feb 2015 vol. 347, issue 6223

2021年 アンケート自由記述ご意見

注)以下に掲載の記述回答文の内容は、回答者個人のご意見で有り、財団の見解を代表するものではありません。
また回答には氏名(敬称略)、国名、事務局番号を明記して、匿名希望者は匿名として表記しております。
表中のご意見は、一部抜粋となっているものもあります。

2021年 SDGsに関するご意見

注)以下に掲載の記述回答文の内容は、回答者個人のご意見で有り、財団の見解を代表するものではありません。
また回答には氏名(敬称略)、国名、事務局番号を明記して、匿名希望者は匿名として表記しております。
表中のご意見は、一部抜粋となっているものもあります。

2021年 地球環境の変化を示す項目(第1 ~ 3位選択)の分布(項目ごとの危機時刻と支持率)

2021年 環境問題への取り組みの改善の兆しに関する認識