調査時期 | : | 2023年4月から6月 |
調査対象 | : |
世界各国の政府・自治体、NGO/NPO 、大学・研究機関、企業、マス・メディア、民間等の環境問題に関する有識者 (旭硝子財団保有データベースに基づく)
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送付数 | : | 29,729(海外 27,971 国内1,758) |
回収数 | : | 1,805 |
回収率 | : | 6.1% |
表1. 地域・組織別の回収結果 |
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本報告書における分析の百分率のベースは、特に説明がない限り、単一回答の設問については回収票数、複数回答の設問については有効回答の延回答件数を使用している。
※数値は小数点第1位もしくは第2位を四捨五入してある。
※延回答件数ベース:回収票数ではなく、その質問に対してなされた回答の延件数を基数とする。
Ⅲ-1 人類存続の危機に関する認識- 環境危機時計®
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Ⅲ-2 環境問題への取り組みの改善の兆しに関する認識
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環境問題への取組みに改善の兆しは見られますか。パリ協定、SDGsが採択された2015年以前と比較して以下の3つの観点からお答えください。
環境問題への取組みに対する改善の兆しとして、「一般の人々の意識」、「政策・法制度」、社会基盤「資金・人材・技術・設備」の三つの要素があると仮定し、脱炭素社会への転換と「地球環境の変化を示す項目」別に質問をした。
回答の「全く進んでいない」を-2、「どちらかといえば進んでいない」を-1、「どちらともいえない」を0、「どちらかといえば進んでいる」を+1、「確実に進んでいる」を+2として数値化し平均値を算出した。
地域・国ごとの平均値の算出にあたっては、30 以上の標本数を対象にした。
問2-1 脱炭素社会への転換は進んでいると思いますか?
全世界の平均値と地域・国ごとの平均値を表8に示す。
世界平均は下記の通りとなった。
- 一般の人々の意識+0.77
- 政策、法制度+0.52
- 社会基盤(資金・人材・技術・設備)+0.38
- 全体として、脱炭素社会への転換については、「政策・法制度」や「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の面は、「一般の人々の意識」ほど進んでいないという結果となった。
- 日本と韓国のみ2022年まで3年連続してポイントが増えていたが、2023年には日本の「一般の人々の意識」がやや低下、韓国は「政策・法制度」や「社会基盤」の面で大きく後退した。
- 地域により「一般の人々の意識」と「政策、法制度」の進み具合のとらえ方に差が見られた。中国、台湾では「政策・法制度」が「一般の人々の意識」よりやや進んでおり、両者の差は小さい。これに対し、オセアニア、北米、西欧では両者の差が大きく、「政策、法制度」が「一般の人々の意識」よりも大きく遅れているという結果となっている。上記の傾向はここ3年間変わっていない。
- 中国ではどの項目でも2022年の数値より小さくなったが、世界で最も高い値になっている。とくに「政策、法制度」、「社会基盤」については脱炭素社会への転換が進んでいると考える回答者が多い。
- 東欧・旧ソ連では、2022年から2023年にかけて、「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の面でポイントが大きく低下し-0.30となった。
- 組織別に見ると、企業では他の組織よりも「政策・法制度」、「社会基盤」の面で脱炭素社会への転換が進んでいるとの考えが以前から強い。中央政府では「一般の人々の意識」が年々良い方向に変わってきていると考えている。
- 世代別に見ると、20代、30代の若い世代は、他の世代に比べて「政策、法制度」、「社会基盤」の面で脱炭素社会への転換が進んでいるとの考えが強い。これには若い世代の回答者に中国の若者が多いことが反映されている。
表8 「脱炭素社会への転換の進み具合」に関する世界平均と地域、属性別平均 |
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問2-2 取組みに改善の兆しが見られることを、表5の“地球環境の変化を示す項目”から1つ選んでお答えください。
表9 改善の兆しがあると選択された項目の選択率と改善の兆しの指標値の推移 |
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問2-2について、、「一般の人々の意識」、「政策・法制度」、「社会基盤」の三つの視点から問2-1と同様に分析した結果を表9に示す。
- 改善の兆しがある項目として、2023年に多く選ばれたのは、「気候変動」(27.0%)で、次いで、「社会、経済と環境、政策、施策」(16.3%)、「ライフスタイル(消費性向)」(12.7%)の順であった。この傾向は2019年以来変わっていない。「全く改善の兆しはない」という回答は16.6%あった。
- 「 気候変動」は、問1で、環境危機時計®の時刻を考える上で重要な項目として最も多く選ばれており、「気候変動」の問題と、その改善への取組みについては世界的に関心が高いことがうかがわれる。
- 問1で2番目に多く選ばれ、項目の中で環境危機時計®の時刻が最も進んでいる「生物圏保全性(生物多様性)」は、取組みに改善の兆しが見られる項目としては5番目の選択率になっている。「生物圏保全性(生物多様性)」については、「一般の人々の意識」「政策・法制度」、「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」すべての面で昨年よりポイントが低下している。 とくに「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の値は最小になっている。
一番多く選ばれた「気候変動」について、全回答の平均値と、標本数が15以上の地域・組織・世代ごとの平均値を表10に示す。
表10 改善の兆し「気候変動」に関する 世界平均と地域、属性別平均 |
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- 「 一般の人々の意識」の2023年世界平均は+1.28で、昨年と同じレベルである。昨年に引き続き、2023年にも、オセアニア、北米、西欧では、+1.4以上の高い値になっている。
- 「 政策・法制度」の2023年世界平均は+0.82であるが、中国は+1.40と、他の地域よりも圧倒的に大きくなっている。一方、南米では+0.40と最も低くなっている。
- 「 社会基盤」の2023年世界平均は+0.66で、地域別では、アジア、オセアニア、北米、西欧はこれより高めで、南米、アフリカは+0.40以下で非常に低い。
- 2021年から2023年にかけてみると、オセアニアでは、「政策、法制度」の面で2023年に値が大きくなり、「社会基盤」については、2年連続で改善の兆しが見られた。
- 組織別に見ると、中央政府では、2023年に「一般の人々の意識」の面で最も高い1.50の値を示した。
- 世代別に見ると、20代、30代の若い世代は、他の世代に比べて「政策、法制度」、「社会基盤」の面で気候変動への対策が進んでいるとの考えが強い。これには若い世代の回答者に中国の若者が多いことが反映されている。
※ 気候変動以外の項目については、国、地域ごとの標本数が少ないため、データ分析は行わなかった。
Ⅲ-3 持続可能な開発(SDGs)の達成可能性に関する認識
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問3-1 あなたが日々の生活で、関心を持っていることを17ある目標の中から3つ選び、関心が高いものから順に1 位、2 位、3 位を番号でお答えください。
日々の生活で関心が高い目標として選ばれた1位、2位、3位の回答を1~3位の百分率の積上げで解析し、各項目を比較した結果を表11に示す。
表11 日々の生活で関心を持っている目標(1位~ 3位の積上げ、複数回答) |
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- 世界全体でみると、日々の生活で関心を持っている目標として、「13.気候変動に具体的な対策を」、「3.すべての人に健康と福祉を」、「7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、「15.陸の豊かさを守ろう」が、多くの国で選ばれた。目標3,7が選ばれていることは、COVID-19のパンデミックを経験したあとで、日々の健康を願い、最近のエネルギー価格の高騰に困惑する回答者の気持ちが表れている。
- 「 3.すべての人に健康と福祉を」は、とくにアジア、オセアニアで多く選ばれた。
- 「 7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」は、アジア、東欧・旧ソ連で多く選ばれた。
- 「 15.陸の豊かさを守ろう」は、北米、メキシコ・中米・カリブ諸国、南米、西欧、アフリカと非常に多くの地域で選ばれた。
- 東欧・旧ソ連では、「16.平和と公正をすべての人に」が最も多く選ばれた。
問3-2 あなたが世界の問題として、関心が高いことを17ある目標の中から3つ選び、関心が高いものから順に1 位、2 位、3 位を番号でお答えください。
世界の問題として関心が高いとして選ばれた1位、2位、3位の回答を1~3位の百分率の積上げで解析し、各項目を比較した結果を表12に示す。
表12 世界の問題として関心が高い目標 |
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- 世界の問題として関心が高い目標に、「13.気候変動に具体的な対策を」がすべての国、地域で最も多く選ばれた。これに「1.貧困をなくそう」、「16.平和と公正をすべての人に」が続く。これらの目標の実現について世界で多くの人が関心を持っている。
- 日々の生活の中で関心が高いのは、「13.気候変動に具体的な対策を」、「3.すべての人に健康と福祉を」、「7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」であったが、同時に世界の問題として気候変動について強い強い懸念を抱いている。
- 表11、12を合わせてみると、世界の多くの人が気候変動の問題を身近な問題としてとらえ、日々の生活の中でも関心を持っていることがわかる。
問4-1 あなたがお住まいの国または地域で、17ある目標の中で2030年に達成度が高いと思う目標を3つ選び、高いものから順に1位、2位、3位を、目標の番号でお答えください。
達成度が高いと思う目標として選ばれた1位、2位、3位の回答を1~3位の百分率の積上げで解析し、各項目を比較した結果を表13に示す。
表13 お住まいの国・地域で2030年に達成度が高いと思う目標 |
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- 自分の住む国・地域で2030年に達成度が高いと思う目標として、世界平均としては、「6.安全な水とトイレを世界中に」、「4.質の高い教育をみんなに」、「2.飢餓をゼロに」の三つが選ばれている国・地域が多い。これらは昨年の結果と同じである。
- 世界では「4.質の高い教育をみんなに」の達成度が高いと思うと回答した人が多い中、メキシコ・中米・カリブ諸国、南米では、この目標の達成度が高いと回答した人が少ない。
- インド、オーストラリア、中東では、「13.気候変動に具体的な対策を」の達成度が高いとした回答者が多い。
- アジアでは、「7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」の達成度が高いと回答した人が他の地域より少ない
- 「 13.気候変動に具体的な対策を」は、世界的な問題として多くの人が関心を持っているが、自国でこの目標の達成度が高いと考える国・地域は限られている。
- 「 5.ジェンダー平等を実現しよう」は、アジア、中東、東欧・旧ソ連では2030年時点での達成度が高いと思われていないが、メキシコ・中米・カリブ諸国、南米、西欧では達成度が高いと考えられている。
問4-1 あなたがお住まいの国または地域で、17ある目標の中で2030年に達成度が低いと思うものを3 つ選び、低いものから順に1位、2位、3位を、目標の番号でお答えください。
達成度が高いと思う目標として選ばれた1位、2位、3位の回答を1~3位の百分率の積上げで解析し、各項目を比較した結果を表13に示す。
表14 お住まいの国・地域で2030年に達成度が低いと思う目標 |
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- 自分の住む国・地域で2030年に達成度が低いと思う目標として、「1.貧困をなくそう」、「13.気候変動に具体的な対策を」、「10.人や国の不平等をなくそう」の三つを選んだ回答者が多かった。これらは世界的に共通の課題である。
- 「 1.貧困をなくそう」が世界の多くの国で、世界で2030年に達成度が低いと思う目標に選ばれた。さらに、「2.飢餓をゼロに」が南米、アフリカ、中東では達成度の低い目標の上位3つに入った。
- 「 5.ジェンダー平等を実現しよう」の自国での実現が難しいと考えている回答者が、特に日本、中国、韓国に多い。
- 「 12.つくる責任つかう責任」が、自国での達成度が低いと思う目標に選んだ回答者は、オセアニア、北米、西欧に多かった。
- 領土問題、紛争、戦争などに関わっている台湾、中東、東欧・旧ソ連では、「16.平和と公正をすべての人に」が他の地域に比べて達成度が低いと考えられている。
Ⅳ. おわりに
世界の環境危機時計®の時刻は2020年の9時47分から2023年の9時31分まで連続して合計16分戻った。昨年若い回答者の影響で38分戻った中国でも今年さらに9分戻り、南米で21分、西欧で13分、中東で17分戻った。一方、メキシコ・中米・カリブ諸国で26分、東欧・旧ソ連では24分、針は進んだ。環境問題に変化を感じた地域が多かったようである。
また、環境危機時計®の時刻を決める際に選択する「地球環境の変化を示す項目」では、「気候変動」が他の項目に比べ圧倒的に多い30%の人々に選ばれ、世界で気候変動が喫緊の問題と認識されていることがわかる。
2023年も、パリ協定、SDGsが採択された2015年以前と比較して改善の兆しが見られるかという意識調査も行った。「一般の人々の意識」や「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」は国や地域ごとに状況が異なっているので、全世界の平均値と地域・国ごとの平均値を合わせて表にまとめ、2021年からの推移がわかるようにした。
問2-1の脱炭素社会への転換については、世界全体では「一般の人々の意識」に比べて、「政策、法制度」、「社会基盤」の面では進んでいないという結果であった。
問2-2で、取組みに改善の兆しが見られる上位項目は、「気候変動」(27.0%) 、「社会、経済と環境、政策、施策」(16.3%) 、「ライフスタイル(消費性向)」(12.7%)の順であった。過去3年とも「気候変動」を選ぶ割合が最も高く、「気候変動」の問題と、その改善への取り組みについては一般の人々の意識も高い。
2030年までに達成すべき目標であるSDGsについて、日々の生活における関心と世界の問題としての関心という二つの切り口で質問した。その結果、「13. 気候問題に具体的な対策を」が、日々の生活の中の関心としても世界の問題としても1位となり、気候問題という世界的な問題を日々の生活の中でも意識することが多くなっていることがわかる。日々の生活の中の関心として「3. 全ての人に健康と福祉を」、「7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに」が続いて選ばれ、新型コロナウイルス感染症に不安を感じ、エネルギー価格の高騰に困惑する一般の人々の気持ちが垣間見られた。
今年も自国での2030年時点でのSDGsの達成度に関して質問した。達成度が高いと思う目標は地域によって比較的ばらつきがあるが、達成度が低いと思う目標として、多くの国で「1.貧困をなくそう」と「10.人や国の不平等をなくそう」の二つが選ばれた。貧困と不平等の解消は世界の人々の共通の願いといえるだろう。
最後に、今年もアンケート回答期間直前の一年間の、環境に関する世界の主な出来事をまとめた表を参考資料として作成した。報告書の結果を自分なりに読み解く際に、この表を参考にしていただきたい。
今後、しばらくの間、上記の質問を続けていく予定であり、来年もアンケートに協力していただけると幸いである。