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地球環境問題と人類存続に関するアンケート 調査報告

 本報告書は、当財団が1992年より実施している「地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」の2025年調査結果をとりまとめたものです。本年も、環境問題の有識者による現状認識をより多くの方々にお伝えすべく、ここにご報告申し上げます。

2025年の環境アンケートは、例年通り4月、5月に実施されました。2024年の世界情勢を振り返ると、2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は依然として続いており、2023年10月7日に勃発したイスラエルとハマスの戦争も未だ終結の兆しが見えていません。さらに米国では、2024年の大統領選挙でドナルド・トランプ氏が再選を果たし、2025年1月に大統領に就任しました。その直後、トランプ大統領は、地球温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」からの再離脱を表明し、石炭産業の復興を明確に打ち出しました。こうした国際情勢のもとで行われた本年のアンケートには、世界各地から1,751件ものご回答をいただきました。ご多忙の中、ご協力くださった皆様に心より感謝申し上げますとともに、本年もこうして結果をご報告できることを大変嬉しく思います。

今年の環境危機時計の時刻は、昨年より6分進み、9時33分となりました。2021年から2024年にかけて4年連続で針が戻っていましたが、2分以上進んだのは2017年以来、8年ぶりです。地域別では、アジア、オセアニア、北米、南米、西欧、中東と多くの地域で針が進みました。年代別では、60代以上の回答者は昨年よりも針が戻った時刻を示した一方、それ以外の世代では進んだ時刻を回答しました。これらの結果から、世界全体として環境問題の悪化に対する認識が広がっていることがうかがえます。

また、昨年に引き続き、「生活者の環境危機意識調査」として、日本国内の一般生活者を対象とした調査も実施いたしました。結果は当財団のウェブサイトにて公開いたしますので、世界の有識者を対象とした本アンケートとあわせて、ぜひご覧ください。

今回も、多くの方々からご回答とともに、有意義なご意見やコメントを多数お寄せいただきました。各国の回答者から寄せられたコメントは、本年も当財団のウェブサイトにて掲載いたします。
環境問題に関する有識者の生の声を、ぜひご参照ください。

私たちは、本環境アンケートを通じて、環境問題に関わる方々のみならず、より多くの人々に環境への関心を深めていただき、地球環境問題の解決に向けてささやかながら貢献できることを願っております。今後とも、皆様からの貴重なご助言・ご指導を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

2025年9月
公益財団法人 旭硝子財団

1 調査の概要

調査時期2025年4月から6月
調査対象 世界各国の政府・自治体、NGO/NPO、大学・研究機関、企業、マス・メディア、民間等の環境問題に関する有識者
(旭硝子財団保有データベースに基づく)
送付数約42,000(海外 約39,000 国内 約3,000)
回収数1,751
回収率約4.1%
表1 属性別の回収結果

※本報告書における分析の百分率のベースは、特に説明がない限り、単一回答の設問については回収票数、複数回答の設問については有効回答の延回答件数を使用している。

※数値は小数点第1位もしくは第2位を四捨五入してある。

※延回答件数ベース:回収票数ではなく、その質問に対してなされた回答の延件数を基数とする。

2 調査結果の概要

2.1 人類存続の危機に関する認識̶環境危機時計



 自分が住む国または地域における環境問題を考える上で重要な“地球環境の変化を示す項目”を3つ選んで順位付けをし、それぞれについての危機意識を時刻で表現してもらった。
  • 環境危機時計の時刻は昨年より6分進み、9時33分になった。2021年から2024年まで4年連続で針が戻っていたが、2分以上針が進んだのは2017年以来8年ぶりである。
  • 調査した地域別にみると、アジア、オセアニア、北米、南米、西欧、中東と多くの地域で針が進んだ。特に中東では34分、オセアニアでは23分、西欧では14分と大きく針が進んだ。
  • 日本の環境危機時計の時刻は9 時39分となり昨年に比べ針が2分進んだ。
  • 世界全体の環境危機時計の時刻を決定する際に選ばれた「地球環境の変化を示す項目」は、昨年と同様に「気候変動(29%)」、「生物圏保全性(生物多様性)(13%)」、「社会、経済と環境、政策、施策(13%)」が上位3項目。
  • 「地球環境の変化を示す項目」の時刻を針が進んでいる順にすると、「生物圏保全性(生物多様性)」(9時50分)、「気候変動」(9時39分)、「社会、経済と環境、政策、施策」(9時39分)が世界平均(9時33分)よりも進んでいる。

2.2 「気候変動問題」と「生物多様性の喪失」の問題に関する認識


 地球環境問題の中で、「気候変動問題」と「生物多様性の喪失」の問題には特に大きな関心が集まっている。「一般の人々の意識」、「政策・法制度」、「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の三つの観点から、地球温暖化抑制のための「脱炭素社会への転換」と「野生生物の生息地の保全・再生」の自国内での進捗の認識について尋ねた。

  • 脱炭素社会への転換については、「政策・法制度」や「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の面は、「一般の人々の意識」の面ほど進んでいない。
  • 野生生物の生息地の保全・再生について、進んでいると考える人は全ての面で少なく、脱炭素社会への転換に比べても遅れていると考えられている。

2.3 持続可能な開発目標(SDGs)に関する認識


 17 ある SDGs について、自分の住む国・地域で2030年に達成度が高いまたは低いと思う目標について尋ねた。

  • 2030年に達成度が高いと思う目標として、「18. 達成度が高いと思うものはない(25%)」、「9.産業と技術革新の基盤をつくろう(21%)」、「6.安全な水とトイレを世界中に(19%)」の三つが選ばれた。
  • 2030年に達成度が低いと思う目標として、「1.貧困をなくそう(33%)」、「10.人や国の不平等をなくそう(26%)」、「16.平和と公正をすべての人に(25%)」の三つが多くの国、地域で選ばれた。

2.4 持続可能な開発目標(SDGs)の感覚的な達成度に関する認識


 2030 年までの目標達成に向けて、17 あるSDGsが、全体として 2025 年時点でどの程度達成できていると思うかを尋ねた。

  • 全目標達成を100%としたときの2025年時点でのSDGsの感覚的な達成度について、回答者の14.1%が達成度0%と回答し、平均は33.7%であった。
  • 20代、30代の回答者は2025年時点でのSDGsの達成度が40%以上であると感じているのに対し、50代以上の回答者は30%も達成していないと感じており、年代による達成度の感じ方に大きな違いがある。

2.5 環境問題を解決するための行動についての認識


 環境問題を解決するために誰の行動が重要であると思うかを尋ねた。

  • どの地域でも、中央政府と回答した人の割合が最も多い。
  • 勤務先別では、企業の人の51%が、中央政府や地方自治体の行動が最も重要だと回答したが、中央政府の人では、中央政府が重要と回答した人は27%であった。
  • 20代・30代には、中央政府、地方自治体と回答した人の割合(45%)が他の世代(33%)よりも高い。

3 調査結果

3.1 人類存続の危機に関する認識 — 環境危機時計

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問1 9ページの表5は“地球環境の変化を示す項目”です。地球全体の問題を念頭に置きながら、あなたがお住まいの国または地域における環境問題を考える上で重要な項目を3つ選んで1位~3位の順位付けをし、それぞれ時計の針に例えて0:10~12:00の範囲で○○時○○分と答えてください。時刻は便宜上、10 分単位でご記入下さい。

※環境危機時計の時刻の決定法について
 1位から3位の時刻の加重平均(1位:50%、2位:30%、3位:20%)として環境危機時計の時刻を決定します。
 有効な回答が、1位と2位だけの場合は1位:62.5%、2位:37.5%。1位だけの場合は100%としています。

図1 環境危機時計の時刻

3.1.1 世界の環境危機時計の時刻

表2 1992年からの環境危機時計の時刻の推移(世界)

図2 世界と日本の環境危機時計の時刻の推移
  • 世界の環境危機時計の時刻は2020年以来、戻る傾向にあったが、2025年は前年から6分進んだ。

図3-1 世界各地域と日本の環境危機時計の時刻

表3 地域別の環境危機時計の時刻の推移
  • 表3に示すように、世界全体で環境危機時計の針は6分進み、9時33分になった。
  • 日本の環境危機時計の平均時刻は9 時39分となり昨年より2分進んだ。
  • 地域別に見ると、オセアニアで23分、中東で34分と大きく時刻が進んだ。2024年、オーストラリアでは冬の8月の気温が記録的に高かったこと、中東、サウジアラビアのメッカで2024年6月に51.8℃になり大巡礼(ハッジ)で約1300人の死者が出たりしたことが影響しているのかもしれない。
  • 西欧は、世界の地域の中で唯一、2年連続で時計の針が10分以上進んだ。これは、2023年、2024年と猛暑が続いたことや、ロシア・ウクライナ戦争の長期化によるエネルギー供給の不安定化などが回答者の意識に影響しているのではないだろうか。

図3-2に表3に示した地域・国の中から回答者の多いものを抜粋して、過去10年の環境危機時計の時刻の推移を示す。


図3-2 回答者数の多い国・地域の環境危機時計の時刻の推移
  • 中国では2021年から時計の針が戻り続けていたが、2025年には20分進んだ。中国では2024年が観測史上最も暑い年となったり、中国南部で豪雨による大規模な洪水が発生したりしたことが影響している可能性がある。
  • 台湾の回答者は、20~40代の人が約8割を占め、例年8時台の危機時刻を回答しており、2021年以降は時計の針が戻り続けている。

過去10年間の環境危機時計の時刻の世代別推移を表4,図4に示す。

表4 環境危機時計の時刻の世代別推移
  • 60代以上の回答者は、他の世代よりも進んだ環境危機時計の時刻を回答する傾向がある。
  • 今年は20代から50代の示す環境危機時計の時刻は進み、60代以上では時刻が戻った。60代以上とそれ以外とで環境問題の現状の捉え方が異なっている。
  • 過去10年を振り返ると、20 代が示す環境危機時計の時刻は、2020年以降は戻る傾向にあったが、2025年には5年ぶりに進んだ。
図4 環境危機時計の時刻の推移の世代別推移

3.1.2 地球環境の変化を示す項目

表5 地球環境の変化を示す項目

図5 持続可能な開発目標 (SDGs)

3.1.2.1  地球環境の変化を示す項目(第1 ~ 3位選択)の分布

図6-1 地球環境の変化を示す項目(第1~3位選択)の分布 (環境危機時計の時刻と選択率), 2025年
  • 世界全体の環境危機時計の時刻を決定する際に選ばれた「地球環境の変化を示す項目」は、昨年と同様に「気候変動」(29%)、「生物圏保全性(生物多様性)」(13%)、「社会、経済と環境、政策、施策」(13%)が上位3項目であり、これに「水資源」(9%)、「生物化学フロー(環境汚染)」(8%)、「ライフスタイル(消費性向)」(7%)、「人口」(7%)、「食糧」(7%)、「陸域系の変化(土地利用)」(6%)と続いた。各項目の占める割合は昨年からほとんど変わっていない。
  • 同じく世界全体の「地球環境の変化を示す項目」を環境危機時計の時刻が進んでいる順に並べると、「生物圏保全性(生物多様性)」(9時50分)、「気候変動」(9時39分)、「社会、経済と環境、政策、施策」(9時39分)が世界平均(9時33分)よりも進んでいる。平均よりも戻っているのは、「生物化学フロー(環境汚染)」(9時26分)、「食糧」(9時23分)、「ライフスタイル」(9時20分)、「水資源」(9時20分)、「陸域系の変化(土地利用)」(9時15分)、「人口」(9時11分)、の順となった。
  • 2025年には、「生物圏保全性(生物多様性)」、「気候変動」、「社会、経済と環境、政策、施策」以外の項目では、時刻と選択率に大きな差がなくなっている。

図6-2 地球環境の変化を示す項目(第1~3位選択)の分布 (環境危機時計の時刻と選択率), 2024年

図6-3 地球環境の変化を示す項目(第1~3位選択)の分布 (環境危機時計の時刻と選択率), 2023年

3.1.2.2 各地域の地球環境の変化を示す項目の選択傾向

表6 各地域の地球環境の変化を示す項目の選択傾向

2024年、世界全体でみると「地球環境の変化を示す項目」として「気候変動」(29%)が最も多く選ばれた。

  • 地域別に見ると、東欧・旧ソ連以外の全ての地域で「地球環境の変化を示す項目」として「気候変動」が最も多く選ばれた。世界中で気候変動を感じている。次いで、「生物圏保全性(生物多様性)」(13%)が、多くの地域で選ばれているが、アジアでは、経済と環境、政策、施策が2番目に選ばれている。
  • アジアに着目すると、「気候変動」の次の項目は、中国では「水資源」、台湾、韓国では「生物化学フロー(環境汚染)」、インドでは「生物圏保全性(生物多様性)」、日本では、「社会、経済と環境、政策、施策」が選ばれ、同じアジアの中でも違いが見られる。

3.1.2.3 地球環境の変化を示す項目の環境危機時計の時刻の地域分布

表7 地球環境の変化を示す項目の環境危機時計の時刻の地域分布
  • 地球環境の変化を示す項目としては、「生物圏保全性(生物多様性)」(9時50分)が2位の「気候変動」「社会、経済と環境、政策、施策」(9時39分)とともに、世界の環境危機時計の時刻9時33分よりも進んでいる。
  • 地域ごとに見て危機意識が相対的に高い(10時30分以降)のは、オセアニアの「社会、経済と環境、政策、施策」(10時44分)、「気候変動」(10時35分)、北米の「生物圏保全性(生物多様性)」(9時50分)、「社会、経済と環境、政策、施策」(10時36分)、西欧の「気候変動」(10時39分)である。
  • 地域ごとに見て危機意識が相対的に低い(9時以前)のは、北米の「陸域系の変化(土地利用)」(8時49分)、メキシコ・中米・カリブ諸国の「気候変動」(8時34分)、アフリカの「気候変動」(8時27分)、「水資源」(7時14分)である。

3.2 「気候変動」と「生物多様性の喪失」の問題に関する認識

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問2 地球環境問題の中で、「気候変動」と「生物多様性の喪失」の問題には特に大きな関心が集まっており、どちらも解決を急ぐ必要があります。これらの問題についてのあなたの現状認識を伺います。

 地球環境問題の中で、「気候変動問題」と「生物多様性の喪失」の問題には特に大きな関心が集まっている。「一般の人々の意識」、「政策・法制度」、「社会基盤(資金・人材・技術・設備)」の三つの観点から、地球温暖化抑制のための「脱炭素社会への転換」と「野生生物の生息地の保全・再生」の自国内での進捗の認識について質問した。
 スコアは、「全く進んでいない」を-2、「どちらかといえば進んでいない」を-1、「どちらともいえない」を0、「どちらかといえば進んでいる」を+1、「確実に進んでいる」を+2として、各回答に数値を割り当て、平均値を算出。地域・国・組織・世代ごとの平均値の算出にあたっては、30 以上の標本数を対象にした。

問2-1 地球温暖化への取り組みを促進するため、2015年にパリ協定、SDGs が採択されました。
2015年以前と比較して、以下の3つの観点からお答えください。
あなたの住んでいる国・地域で脱炭素社会への転換は進んでいると思いますか。


 全世界の平均値と地域・国ごとの平均値を表8に示す。世界平均は下記の通りとなった。
  • 一般の人々の意識+0.77
  • 政策、法制度+0.57
  • 社会基盤(資金・人材・技術・設備)+0.39

  • 全体として、脱炭素社会への転換については、「政策・法制度」や「社会基盤」の面は、「一般の人々の意識」ほど進んでいないという結果となった。
  • アジアの中で、台湾は、「一般の人々の意識」、日本は、「政策・法制度」、「社会基盤」の面でポイントが最も小さい。
  • 国や地域により「一般の人々の意識」と「政策、法制度」の進み具合のとらえ方に差が見られた。中国、台湾では両者の差は小さく、「政策、法制度」が「一般の人々の意識」よりやや進んでいるという結果であった。これに対し、オセアニア、北米、西欧では両者の差が大きく、「政策、法制度」が「一般の人々の意識」よりも大きく遅れているという結果となっている。上記の傾向はここ4年間変わっていない。
  • 特に北米で、政策、法制度が2024年の0.89から2025年には-0.27にまで低下したのは注目に値する。米国の政権交代の影響が表れていると考えられる。
  • 中国では「政策、法制度」、「社会基盤」の面で、4年続けて世界で最も高い値になっている。政府主導で脱炭素社会への転換が進んでいると考える回答者が多いようである。
  • 組織別に見ると、。中央政府の関係者は「一般の人々の意識」、「政策・法制度」、「社会基盤」の全ての面で、2024年からポイントが低下した。ジャーナリズムの関係者は、「政策・法制度」、「社会基盤」の面で2024年からマイナスの値までポイントが大きく低下した。
  • 世代別に見ると、20代、30代の若い世代は、他の世代に比べて「一般の人々の意識」、「政策・法制度」、「社会基盤」の全ての面で脱炭素社会への転換が進んでいるとの考えが強い。
表8 「脱炭素社会への転換の進み具合」に関する世界平均と地域、属性別平均


問2-2 生物多様性が失われるのを抑えるため、愛知目標の後継となる世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が2022 年に採択されました。2022 年以前と比較して、以下の3 つの観点からお答えください。
あなたの住んでいる国・地域で野生生物の生息地の保全・再生は進んでいると思いますか。


 問2-2について、「一般の人々の意識」、「政策・法制度」、「社会基盤」の三つの観点から問2-1と同様に分析した。全世界の平均値と地域・国ごとの平均値を表9に示す。世界平均は下記の通りとなった。
  • 一般の人々の意識+0.50
  • 政策、法制度+0.43
  • 社会基盤(資金・人材・技術・設備)+0.17

  • 世界全体で、「野生生物の生息地の保全・再生の進み具合」はどの観点でもポイントは0.5以下で、「気候変動」への対応に比べて全ての面で進んでいないと考える人が多いが、どの観点でも2024年よりはポイントが高くなった。
  • 三つの観点の中では、「社会基盤」が「一般の人々の意識」、「政策・法制度」よりも遅れていると考える人が多い。
  • 中国の回答者は、他の地域の回答者よりも全ての面で「野生動物の生息地の保全・再生」が進んでいると考えている。
  • 日本では、2024年に続いて、三つの観点ともマイナスのポイントとなっており、野生生物の生息地の保全・再生は進んでいないと考える回答者が多い。
  • 2025年、米国ではどの観点でもポイントが大きく低下し、とくに「政策・法制度」、「社会基盤」では最も低いポイントになっている。
  • 中央政府の回答者は、「一般の人々の意識」「政策・法制度」、「社会基盤」すべての面で、2024年よりポイントが低下した。一方、地方自治体、企業の回答者は、すべての面で、ポイントが高くなり、野生生物の生息地の保全・再生が少しずつ進みつつあると考えている。
  • 20代、30代の回答者は、他の世代よりもすべての面で野生生物の生息地の保全・再生が少しずつ進みつつあると考えている。
表9 「野生生物の生息地の保全・再生の進み具合」に関する世界平均と地域、属性別平均

3.3 持続可能な開発目標(SDGs)の達成度に関する認識

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問3-1  あなたがお住まいの国または地域で、17 ある目標の中で2030 年に達成度が高いと思う目標を3 つ選び、高いものから順に1 位、2 位、3 位を、目標の番号でお答えください。

達成度が高いと思う目標として1位、2位、3位に選んだ回答者の割合(%)を表10に示す。
表10 お住まいの国・地域で2030 年に達成度が高いと思う目標
  • 自分の住む国・地域で2030年に達成度が高いと思う目標を選ぶ質問に対して、「達成度が高いと思うものはない(25%)」、「9.産業と技術革新の基盤をつくろう(21%)」、「6.安全な水とトイレを世界中に(19%)」の三つが選ばれた。
  • 「達成度が高いと思うものはない」が最も多く選ばれたのは今年が初めてで、アジア、北米、メキシコ・中米・カリブ諸国で、最も多く選ばれた。
  • インド、メキシコ・中米・カリブ諸国、アフリカ、中東では、「13.気候変動に具体的な対策を」の達成度が高いとした回答者が多い。
  • メキシコ・中米・カリブ諸国、南米、西欧、東欧・旧ソ連では、「5.ジェンダー平等を実現しよう」の達成度が高いとした回答者が多い。これに対して、中東には達成度が高いとした回答者は少ない。

問3-2  あなたがお住まいの国または地域で、17 ある目標の中で2030 年に達成度が低いと思うものを3 つ選び、低いものから順に1 位、2 位、3 位を、目標の番号でお答えください。

達成度が低いと思う目標として1位、2位、3位に選んだ回答者の割合(%)を表11に示す。
表11 お住まいの国・地域で2030年に達成度が低いと思う目標
  • 自分の住む国・地域で2030年に達成度が低いと思う目標として、「1.貧困をなくそう(33%)」、「10.人や国の不平等をなくそう(26%)」、「16.平和と公正をすべての人に(25%)」の三つを選んだ回答者が多かった。
  • 2024年の調査では、「13.気候変動に具体的な対策を」が上位3項目に入っていたが、今年は入らず、代わりに「16.平和と公正をすべての人に」が入った。ウクライナや中東で戦争が続いており、気候変動対策より、今の時点ではとくに世界平和を懸念する回答者の想いが表れている。
  • 「5.ジェンダー平等を実現しよう」の自国での実現が難しいと考えている回答者が、特に日本、中東に多い。
  • 「12.つくる責任つかう責任」が、自国での達成度が低いと思う目標に選んだ回答者は、オセアニア、西欧、東欧・旧ソ連に多かった。

3.4 持続可能な開発目標(SDGs)の感覚的な達成度に関する認識

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問4  2030年までの目標達成に向けて、17あるSDGs が、全体として2024年時点でどの程度達成 できていると思いますか。全目標達成を100%として、1~ 100の数字でお答えください。
便宜上、数字は5%刻みの値でご記入ください。

図7に回答者1,751人の2025年時点での感覚的なSDGs の達成度 (%)の分布を示す。 回答者の14.1%が感覚的な達成度0%と回答し、感覚的達成度の平均は33.7%であった。
図7 2025年時点での感覚的なSDGsの達成度(%)の回答分布

図8に年代別の2025年時点での感覚的なSDGs の達成度 (%)を示す。
図8 年代別の感覚的なSDGsの達成度(%)
  • 20代、30代の回答者は2025年時点でのSDGsの達成度が40%以上であると感じているのに対し、50代以上の回答者は30%も達成していないと感じており、年代による達成度の感じ方に大きな違いがある。

3.5 環境問題を解決するための行動についての認識

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問5  環境問題を解決するために、最も重要なのは誰の行動だと思いますか。次の1~9の中から一つ 選び、選択の理由もお書きください。
    1.政府 2.地方自治体 3.企業 4.研究機関 5.教育機関(学校など)
    6.国際機関(国連など) 7.報道機関 8.NGOs/NPOs 9.一般市民 10.その他( )


環境問題を解決するために、最も重要なのは誰の行動かという質問の回答として選んだ項目の割合を地域別にまとめた結果を図9-1に示す。
図9-1 環境問題を解決するために最も重要なのは誰の行動?(地域別)
  • どの地域でも、中央政府と回答した人の割合が最も多い。
  • 中央政府や地方自治体と回答した人の割合は、アジア、東欧・旧ソ連で高く、中東やアフリカでは小さい。
  • 多くの地域で一般市民が第2位または第3位に選ばれたが、中東とアフリカでは、NGO/NPOが一般市民を大きく上回る差で選ばれている。
  • 図には示していないが、日本では、中央政府 (42%)の次に一般市民の役割が重要と回答した人が27%で、他の国々より一般市民を選んだ人の割合が高かった。


環境問題を解決するために、最も重要なのは誰の行動かという質問の回答として選んだ項目の割合を勤務先別にまとめた結果を図9-2に示す。


図9-2 環境問題を解決するために最も重要なのは誰の行動?(勤務先別)
  • 中央政府やNGOs/NPOsの回答者には、中央政府と回答した人の割合は30%未満と小さい。
  • 企業の回答者には、中央政府や地方自治体の行動が最も重要だと考える人の割合が68%と高い。


環境問題を解決するために、最も重要なのは誰の行動かという質問の回答として選んだ項目の割合を回答者の年代別にまとめた結果を図9-3に示す。


図9-3 環境問題を解決するために最も重要なのは誰の行動?(回答者の年代別)
  • 20代・30代には、中央政府、地方自治体と回答した人の割合が他の世代よりも高い。
  • 60代以上では、一般市民の行動が重要と回答した人の割合が他の世代よりも高い。

4 おわりに

 世界の「環境危機時計」の時刻は、2020年の9時47分から2024年の9時27分まで、4年連続で合計20分戻っていた。しかし2025年には、8年ぶりに針が進み、9時33分となった。ウクライナや中東での戦争が続き、米国がパリ協定から再び離脱したことに加え、2024年も各地で熱波や山火事が頻発したことことが針を進める要因になったのかもしれない。

問1で、「環境危機時計」の時刻を決定する際に選択される「地球環境の変化を示す項目」については、多くの地域で「気候変動」が1位に選ばれたが、東欧・旧ソ連地域では「社会、経済と環境、政策、施策」が1位となった。さらに、世界全体でもこの項目が「生物圏保全性(生物多様性)」を僅差で上回って2位に選ばれた点は、注目に値する。

問2では、特に関心の高い「気候変動」と「生物多様性の喪失」について、「一般の人々の意識」「政策・法制度」「社会基盤」の3つの観点から調査を行った。問2-2では、自国・地域における野生生物の生息地の保全・再生について、中国を除くすべての地域で、「気候変動」より進んでいないと考える人が多く見られた。ただし2024年と比べると、すべての観点で評価が改善しており、保全・再生は遅れながらも前進していると捉える人が増えていることがうかがえる。

問3では、持続可能な開発目標(SDGs)に関する認識を調査した。自国における2030年時点での達成度について、「達成度が高いと思うものはない」を選んだ人が25%にのぼった。また、「16. 平和と公正をすべての人に」が達成度の低い目標として最多(25%)で選ばれ、戦火が続く世界情勢がこうした回答に影響を与えていると考えられる。

問4では、SDGsの達成度について2025年時点での実感を尋ねた。20代・30代では「達成度は40%以上」との回答が多かった一方、50代以上では「30%未満」が多数を占め、世代間で認識に差があることが明らかになった。

また、問5では環境問題の解決に最も重要な役割を果たすべきは誰か」という問いに対し、企業関係者や若い世代からは「中央政府」との回答が多く寄せられた。これに対し、中央政府側では「中央政府が重要な役割を果たすべきである」と答えた割合は比較的少なく、各主体の役割分担に対する認識のずれが浮き彫りとなっている。環境問題への認識は、地域や世代などの属性によって大きく異なり、それが解決を困難にしている一因かもしれない。

最後に、本年もアンケート実施直前の1年間における、環境に関する世界の主な出来事をまとめた年表を参考資料として作成した。報告書の理解にお役立ていただければ幸いである。
番号 項目 あなたがお住まいの国または地域で観察されること(例) プラネタリー・
バウンダリーズ(PB)
関連するSDGs(持続可能な開発目標)
1 気候変動 大気中CO2濃度や地球温暖化、海洋酸性度の増加
旱ばつ、大雨・洪水、暴風雨、大雪、異常低温・高温、河川・湖沼の干上がり、砂漠化などの悪化(増加、頻発化、巨大化)
気候変動、
海洋の酸性化、
大気煙霧質、
オゾン減少
2 生物圏保全性(生物多様性) 絶滅する生物種(見かけなくなった生物)の増加、(汚染、気候変動、土地利用等も関連) 遺伝子多様性、
機能性の多様性
3 陸域系の変化(土地利用) 特に熱帯、温帯、亜寒帯の生物圏の森林領域面積の変化
耕作域面積の変化
陸域系の変化
4 生物化学フロー(環境汚染) 過剰な窒素やリン分による富栄養化や化学物質やマイクロプラスチックスなどによる河川・海洋・土壌汚染の増加
浮遊物質や煤、化学物質による大気汚染の増加
化学物質による汚染、
窒素とリンの循環
5 水資源 枯渇や汚染による利用可能な淡水の減少
グリーンウォーター(土壌に含まれる植物が利用する水)の管理や質の低下
淡水
6 人口 地域や国全体の人口増加
国全体の人口増減とは無関係な都市人口の増加
ほぼ全てのPBの領域に関連
7 食糧 陸や海の食糧資源の減少 ほぼ全てのPBの領域に関連
8 ライフスタイル(消費性向) エネルギー・資源多消費型ライフスタイルからの転換 ほぼ全てのPBの領域に関連
9 社会、経済と環境、政策、施策 環境経済、環境会計を柱とするグリーンエコノミーの実現
環境問題に対する認識や環境教育の進展、法制度、社会基盤
貧困問題の解決、ガバナンス、女性の社会的地位
ほぼ全てのPBの領域に関連
プラネタリー・バウンダリーズ:Will Steffen, Katherine Richardson, Johan Rockstrom et.al. Science 13 Feb 2015 vol. 347, issue 6223

2025年 アンケート自由記述ご意見

注)以下に掲載の記述回答文の内容は、回答者個人のご意見で有り、財団の見解を代表するものではありません。
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2025年 SDGsに関するご意見

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2025年 地球環境の変化を示す項目(第1 ~ 3位選択)の分布(項目ごとの危機時刻と支持率)

2025年 環境問題への取り組みの改善の兆しに関する認識